ただ、集団接種を行っている国の中でも、100万人あたりの感染者数や死者数には開きがある。その背景として宮坂さんが着目するのは、BCGワクチンの「株」の種類だ。

 1921年に仏パスツール研究所で開発されたBCGは、結核の予防効果が確認された後、生きた菌が各国に「株分け」された経緯がある。

「最も初期に分けられたのが日本株とソ連株です。デンマーク株はそれから10年ぐらいたってから、パスツール研究所からデンマークに供与されました」(宮坂さん)

 日本株は台湾やイラクなど、ソ連株は中国など、デンマーク株は欧州各国などにそれぞれ分配されたという。株による死亡率の違いはなぜ生じるのか。カギとなっている可能性があるのが、ワクチンに含まれる「生菌数」と、「突然変異」だ。

 生菌とは生きたままワクチンに含まれている菌のことで、日本株とソ連株は生菌数が他の株より多いという。突然変異について宮坂さんはこう説明する。

「人間が年をとるとがんになりやすくなるのは、細胞が分裂するにつれて遺伝子に突然変異が必ず一定の割合で起きるからです。細菌も同様で、培養期間が増えれば増えるほど突然変異が起きやすくなります」

 日本株やソ連株とほかの株で結核に対する予防効果は変わらないものの、遺伝子変異によってそれぞれの株に含まれる細胞膜の成分に差異が生じているという。

「もしBCGが新型コロナに効いているのだとしたら、こうした性状の違いが寄与していることが推察されます」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2020年5月18日号より抜粋

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