長い受験勉強を乗り越えて、大学合格を勝ち取った受験生たち。週刊朝日は全国の2151高校の各大学の合格者数を独自調査してきたが、今年注目を集めたのは、トヨタ自動車やJR東海、中部電力など88社が計200億円ほどを投じて2006年に設立した中高一貫校(男子校)の海陽中等教育学校(愛知)。今年第1期生が卒業し、東大合格者13人を輩出した。ほかにも京大3人、東工大2人、一橋大3人、早大30人のほか、海外の難関大の合格者も。
東大合格者の出身校を調べてみると、海陽も含め中高一貫の私立校はいぜんとして多い。私立中学受験をひかえる保護者はどのようなことを意識すればいいのだろうか。近く、「ベネッセ進学フェア」でも講演予定で、中学入試に詳しい高濱正伸氏に話を聞いた。高濱氏は、算数オリンピック委員会理事で、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した教育を「花まる学習会」で実践している。
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――私立中高一貫校の受験をひかえる子どもや保護者は、何を意識すべきか?
高濱:目標を立てて、そこに向かって精一杯努力すること。結果がどうであっても、その過程がお子さんを大きく成長させるきっかけになります。何においても言えることですが、私立中高一貫校の受験は、特に大きなきっかけの一つと言えるでしょう。小学校5・6年ともなると、少しずつ親の手を離れる頃です。例えば男の子が、母親にとって理解できない行動をとるようになる。あるいは、好きな本しか読まなかったり、スポーツにばかり打ち込む。受験においても、すべてを保護者が管理しようとしたところで、なかなかうまくいかない。でも、それで良いんです。受験に合格することだけがゴールではないのですから。実際、私の教え子の中には、小学校6年間はスポーツに打ち込んで、その後一流大学に入学した、という子もいます。
――著書『わが子を「メシが食える大人」に育てる』が好評です。「メシの食える大人」とは、どういう大人のことを指すのか?
20数年前に大学受験生を予備校で教えていたときに、「この子たち、飯食えないだろうな」という子がたくさんいました。いい子には育っているけど、生命力、表情が乏しくてハングリーさが見当たらない。この子たちが大学を卒業しても、社会人として飯を食っていけないのではないかと心配になった。そのことを同僚に話しても、「大学に受かればいいんすよ」との返事ばかり。それで、精神科医の友人に話をしたら、「もうとっくにそんな大人はいる。ひきこもりと言われていて、これからは働かない大人が顕在化してくる」と聞きまして。いまでは「ひきこもり」という言葉も広く知られるようになりましたが、当時はまだ誰も言っていなかった。不自由のない環境の中で、苦労、悩みに直面させない子育てが普通になってしまっていました。生活が豊かになったがゆえに、教育は大きく間違えてしまったのです。
私が育てたいのは、「合格できる子、就職できる子」ではなく、「合格、就職後に活躍できる子」。合格や就職は、あくまで最初の「切符」を手に入れたというだけのこと。受験という大きなイベントを前にすると、どうしてもそこにばかり目がいきがちです。でも、お子さんが社会に出て幸せになるためには、より大きな視点で教育をとらえて、導いてあげることが大切です。
*高濱正伸氏も参加する「ベネッセ進学フェア2012」が5月27日、東京国際フォーラムで開催される。私立中高一貫校合同相談会&講演会は要事前予約。申込み締切りは4月25日まで。詳しくは「ベセッセ進学フェア」の公式サイトで。
【関連リンク】
ベネッセ進学フェア2012 http://benesse.jp/fair/