食べ物を消化する酵素のほとんどを出し、糖尿病を防ぐ重要な臓器が膵臓だ。そこにできる膵がんは、5年生存率が10~20%ほどで、もっとも治りにくいがんの一つである。東京女子医科大学病院および東海大学病院勤務時代に、約1300例の膵がん手術を手がけ、数多くの難病例に取り組んできた今泉俊秀医師に、根治に近づく膵がん治療を受けるための助言をもらった。
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膵がんは手術可能な症例が2~3割で、その半分は1年以内に亡くなってしまう難治がんですが、根治が見込める方法は手術のみです。早期発見のためには、日頃から自分のからだの状態をよく知ってくれて、普段と異なる変化を見逃さず、全身倦怠感、食欲不振、おなかや背中の痛み、下痢など、さまざまな病状からも病気を類推してくれるかかりつけ医と出会っておくことが大切です。
膵がんは、おもにみぞおちあたりの痛みを訴えることが多く、胃内視鏡検査で異常がなければむしろ慎重になるべきです。胃に異常がなければ、その裏側にある膵臓に異変があるかもしれないからです。家族に膵がんや糖尿病の人がいるなど遺伝的な面や飲酒・喫煙など生活習慣上の危険因子がある人は、診察時に医師にきちんと申告して、必要な検査をお願いしましょう。
膵がんで少しでも長生きできるかどうかは手術の質が大きく問われます。手術手技に優れた医師の手術を受けるべきです。年間50例以上の膵がん手術をしているハイボリュームセンターといわれる病院での治療が推奨できます。優れた手術とは、手術時間をできるだけ短くして無駄な出血を抑え、術後合併症など患者さんへの侵襲を少なくしながら、がんをきちんと取り除き、手術後の化学療法を受ける体力を残してくれる手術です。このような手術がより根治につながります。膵がんは、外科医にとって、失望感と達成感の落差の大きい病気です。しかし、優れた外科医はみな、何としても治すという強い信念でがんに立ち向かってくれるはずです。
※ 週刊朝日 2012年4月27日号