92年のバルセロナ五輪で当時中学2年の岩崎恭子が金メダルを取って、「天才を探さなければいけない」という風潮が生まれていました。私は自分の経験から、そんな風潮に疑問を持っていました。ちょうどそのころ、ゲナディ・トレツキーコーチが日本に招かれて、講演会で話を聞く機会を得ました。
バルセロナ五輪で男子自由形短距離2冠を獲得したアレクサンドル・ポポフ(ロシア)を指導していたトレツキーコーチは、選手の記録向上とキャリアの関係をグラフに描いて自分の考えを説明しました。
若いころは右肩上がりに記録が向上して、ある時点でプラトーに達する。プラトーは高原、台地という意味で停滞期を指します。トレツキーコーチは「ここからが大切だ」と言い、そこからまだ記録は伸ばせる、と説いていました。
その言葉通り、ポポフは96年アトランタ五輪でも自由形短距離2冠を成し遂げます。私はこのグラフがずっと頭に残っていて、後に平泳ぎで五輪2大会連続2冠を獲得する北島が、成長するときの指針にしていました。今も「この選手はグラフのどこの時期なんだろう」とよく考えます。
長所を見つけて時間をかけて伸ばしていく。子どもの教育など応用範囲の広い考え方だと思っています。
(構成/本誌・堀井正明)
※週刊朝日 2020年5月22日号