“安倍一強”の政治が、音を立てて崩れ始めた。
安倍政権が過去の法解釈を閣議決定で変更してまで定年を延長させた黒川弘務・東京高検検事長が5月21日、辞表を提出した。週刊文春が報じた緊急事態宣言下での「賭け麻雀」を本人が認めたためだ。
黒川氏が同誌の取材を受けたのは、検察庁法改正案の今国会での成立見送りが決まる前日の17日。永田町では「スキャンダルが出るから強行採決をやめた」との臆測が広がる。自民党幹部がこう語る。
「黒川さんは辞任が遅すぎた。これまで安倍政権に仕えてきたから慢心があったのだろう。安倍首相も菅義偉官房長官も、人を見る目がなかったということだ」
ただし、黒川氏が辞任しただけで一件落着とはいかない。現職の官僚からもこんな怒りの声が出ている。
「検察は過去には財務省職員などの公務員も容赦なく立件してきた。賭け麻雀は犯罪。黒川氏を立件しないと身内をえこひいきしていることになる」
影響は他にもある。現在、安倍首相と近い関係にある河井克行前法務相と妻の案里参院議員に関する公職選挙法違反事件の捜査を、広島地検が進めている。東京地検特捜部も応援に入るなど異例の布陣。「官邸の守護神」と言われた黒川氏を失ったことは、安倍政権にとって大きな痛手だ。
連立政権を組む公明党も無傷ではいられない。
案里氏は昨年の参院選広島選挙区で、改選2議席を独占するため、当時の現職・溝手顕正氏に次ぐ候補として出馬した。溝手氏は安倍首相との不仲が知られ、案里氏擁立は官邸主導の「溝手おろし」と言われた。
ただ、溝手氏は公明党との関係が良好で、案里氏の当選は難しいと思われていた。それが、官邸の介入で一変した。溝手氏と親しい元自民党議員はこう言う。
「公明は2人に推薦を出したが、選挙中に創価学会幹部が広島に応援に入り、学会が案里氏支援に動いた。当時、兵庫選挙区で公明党議員が苦戦していたので、自民が兵庫で公明を応援することと“バーター”した。官邸が無茶をやるから、こんな事件が起きるんだ」