結果は案里氏が2番手で当選する一方、溝手氏は僅差で落選。溝手氏の得票数は、前回選挙から半減した。

 この異例の選挙戦を舞台に起きたのが、今回問われている選挙違反疑惑。党から支給された案里氏への選挙費用は1億5千万円で、溝手氏への支援である1500万円の10倍だ。元検察幹部は、「党から支出された1億5千万円に検察が切り込むかが次の焦点だ」と捜査の進展に期待する。

 コロナ対策の迷走に加え、側近に迫る捜査、そして今回の“黒川ショック”。毎日新聞の調査では、内閣支持率が前回調査の40%から27%に急落した。自民党議員がこう話す。

「安倍首相は、桜を見る会の問題で刑事告発されている。黒川氏がいなくなり、内心びくびくしているだろう。それでも安倍首相をかばう人はほとんどいない」

 それもそのはず、現在の状況は、2006年に発足した第1次安倍政権末期と似てきた。

 当時も、消えた年金問題や“お友達”で固めた閣僚のスキャンダルが相次ぎ、官邸の求心力が低下。「官邸崩壊」と言われ、07年の参院選で敗北した後、安倍首相は辞任に追い込まれた。

 検察庁法改正案を取り下げた経緯からも、政権の弱体化が透けて見える。

「安倍官邸は当初、強気で強行採決も辞さない構えだったが、二階(俊博)さんが公明党と先送りの方向で話をつけ、それを官邸の菅氏に伝えた。外堀を埋められ、安倍首相はあきらめたようだ。もうモチベーションを保てないのでは。石破(茂・元幹事長)氏の周辺なんて、がぜん元気になった。首相周辺でも、新型コロナ対策で顔が売れた西村(康稔・経済再生相)氏を、首相の出身派閥の清和会から次の総裁選に出せばいいという話が平然と聞こえてくる」(前出の自民党幹部)

 これまで政権を支えてきた菅氏だが、ここに来て安倍首相との不仲が決定的になったという。自民党ベテラン議員はこう見る。

「安倍首相と菅氏の亀裂はより深まる一方、二階氏と菅氏の近さが明確になった。菅氏が二階氏の後押しで、ポスト安倍を狙うということもあり得る」

 最近では自民党の国会議員が2人寄れば、「安倍さんの次は」という話題になるという。ジャーナリストの田中良紹氏は言う。

「安倍政権はすでに“死に体”。それでも、与党がコロナ危機の中で首相を引きずり下ろすことはないでしょう。第1次政権の時のように、安倍首相が自ら辞めるように手を打つ。それが自民党のやり方です」

(本誌・西岡千史/今西憲之)

※週刊朝日2020年6月5日号

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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