スポーツと歯科とは一見関係なさそうに見えますが、じつは「スポーツ歯科」という専門的な分野があります。口や歯は、スポーツをしている際に比較的けがをすることが多い部位であり、口腔保護用のマウスガードを装着することが義務化されている競技もあります。また、最近のスポーツ科学の研究により、マウスガードを着用して歯のかみ合わせをよくするとパフォーマンスが向上することもわかってきました。これら二つの面を含めて、スポーツ歯科の重要性について、日本スポーツ医学財団理事長の松本秀男医師に紹介してもらいます。
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おそらくみなさんは、ボクシングの試合をしている選手が口の中にマウスピースを着けている姿を見たことがあるでしょう。
ボクシングのように顔面を殴打される格闘技や、アメリカンフットボールのように選手同士がぶつかり合うコンタクトスポーツなどでは、脳しんとうと並んで、歯の破折、口唇や口腔粘膜の損傷、顎関節の脱臼、顎骨骨折といった「口腔の外傷」の発生頻度が高くなります。そのため、選手の安全性を高めるため、衝撃を吸収するための口腔用の保護具が用いられています。
これをボクシングではマウスピース、ラグビーなどほかのスポーツではマウスガードと呼ぶことが多いのですが、いずれも同じものを指しています。
スポーツ用のマウスガードは、とくに顔面や頭部の外傷リスクの高いスポーツ競技では着用が必須とされています。規則において義務化されている競技には、ボクシング、キックボクシング、極真空手、テコンドー、総合格闘技、アメリカンフットボール、ラグビー(中学・高校)、アイスホッケー、ラクロスなどがあります。
そのほかにも、サッカー、硬式野球、柔道、バスケットボール、バレーボール、テニス、ハンドボール、相撲、レスリング、スキー、スノーボード、ウェートリフティング、体操など、比較的ハイリスクとされる多くの競技において、練習や試合の際に多くの選手がマウスガードを着用しています。