落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「ワクチン」。
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今回は『ワクチン』なのである。
今、研究者の皆さんが必死になってワクチン開発に取り組んでくれている、らしい。門外漢でまるで知識のない私なぞは、黙って見守るしかないのである。『見守る』といっても、真横でジーッと見ていても恐らく皆さんのジャマになるだろう。無力な私には時折、従事者の方々の健康を祈るくらいしか出来ないがご勘弁願いたい。「お身体に気をつけて、何卒よろしくお願いいたしますっ!」……終わってしまった。もう『ワクチン』について書けることがなくなってしまった。こういうときは無理にでも絞り出すしかない。
私が小学生のころは年に1回くらい、子どもたちが体育館に集められ、行列させられ、泣こうが喚こうが、無理やり押さえつけられて、大人から二の腕に針を刺されるという阿鼻叫喚のイベントがあった。そう、学校での集団予防接種。給食の後の5時間目が多かったかな。その日はみな黙々とスプーンを口に運ぶのみ。給食がまるで『最後の晩餐』のようだった。
朝、自宅で問診票という名の『悪魔の契約書』を記入する。「保護者に必ず記入してもらうこと」と藁半紙のプリントにあるのでテキトーには書けない。何度測っても36度4分の平熱で健康体だ。問診票にハンコを押してもらうと『人買いに売られる』のと同じくらいの絶望感。
そういえば、問診票を親に書いてもらったことはあるけど、親として書いた覚えがない。今、学校での予防接種は行ってないみたいだ。あれ? 今の子どもたちは一体どこで予防接種をしているのだろう?
台所に家内がいたので聞いてみる。
「今、小学校で予防接種とかしてんの?」。妻いわく「……は? 学校じゃやってないわよ!」と語気が荒い。
私「じゃあどこでやってんのかね?」
妻「注射なんだから病院に決まってんでしょっ!」
私「あー、やっぱりね……そらそうだ」