誕生日を迎えたリスナーには、「みんなに祝福されるというのもむずかしいだろうし、美味しいものもなかなか食べにいけないし……僕がバースデー・ソングをプレゼントします」とケイト・テイラーの“Happy Birthday Sweet Darling”を流し、「おめでとう。You’re a little bit older now.──君は少しだけ歳を取ったんだね」と続けた。
番組ウェブの書斎写真には佐々木マキさん、和田誠さんの絵、プレイヤーに半袖シャツの春樹さんの右腕が写っている。
「コロナとの戦いは戦争のようなものだと言う政治家がいます。でも僕はそういうたとえは正しくないと思う。ウイルスとの戦いは善と悪、敵と味方の対立じゃなくて、どれだけ知恵を絞って、協力し合い、助け合い、うまく保っていけるかという試練の場です。殺し合うための力の戦いではなく、生かし合うための知恵の戦いです。敵意や憎しみは不要なものです。簡単に戦争にはたとえてほしくない。そうですよね?」
ラスト曲「世界は愛を求めている」を紹介し、春樹さんはマイクに向かう。「マスクとワクチンが広く行き渡っても、もし愛や思いやりが足りなければ、コロナが終わったあとの世界は、きっとぎすぎすした味気ない場所になってしまうでしょう。愛って、大事です」
僕はスピーカーに手を当て、春樹さんの声の震えを味わった。放送はすぐに消えてしまうから愛おしい。
「いまお酒を飲んでいるかた、きっといらっしゃるでしょうね。明るいあしたのために乾杯しましょう。おやすみなさい」ラジオはその日最後のニュースを伝え、午前零時の時報で新しい一日が始まった。僕は春樹さんと仲間たちに向かって乾杯、明るいあしたを祈った。
※週刊朝日 2020年6月5日号