TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、村上春樹さんが出演したラジオの特別番組について。
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村上春樹さんの声の魅力は微かな震えにある。透明なトーンを保ちながら震動が人の心を“ここではないどこか”に誘う。春樹さんからメールがあったのは緊急事態宣言延長直後。「こんなこと、できないかな?」と実現したのが『村上RADIOステイホームスペシャル』(5月22日22時)。
「……『明るいあしたを迎えるための音楽』。これが今日のテーマです。もやもや溜まっている憂鬱な気分を音楽の力で少しでも吹き飛ばしたいですね。会いたい人にも会えない、行きたいところにも行けない、やりたいこともやれない、そういう皆さんのために、少しでも元気の出る、心が和む音楽を選びました」
膨大なレコードコレクションから一枚を選び出す春樹さんのプレイリストは絶妙。音楽にはコードがあり、その組み合わせや転調に心を奪われ、涙が零(こぼ)れることも。春樹さんの選曲がクセになるのはそのツボがあまりに心地よいからだ。
「一人暮らしをしている学生です……ずっと家に一人でいるととても孤独を感じます。村上さんは強い孤独を感じたときに何をしますか?」(23歳、女性)。リスナーのメールは短期間にもかかわらず1500本を超えた。「僕は一人っ子だし、一人でいることはもともとあまり苦痛じゃないんです」と言いつつ、「でも若いときに一度、二十歳の頃ですが、孤独の『どつぼ』にはまっちゃったことがありまして、これはかなり辛かったです。本物の孤独というのはこれほど厳しいことなんだと、そのとき初めて実感しました。それは『人は一人じゃ生きていけないんだ』ということ。人を求め、人に求められる。あなたもきっと今は、そういうことを学ぶべき時期にいるのだと思います。トンネルには必ず出口があります」