医学部受験に異変が起きている。「バブル」と言われた医学部人気はついに終焉。不正入試のイメージが拭えず、今後は偏差値が下がる大学も出てくるとみられるという。
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「難関だった医学部が、入りやすくなってきています」
こう話すのは河合塾教育情報部の岩瀬香織チーフだ。近年、医学部(医学科)受験は過熱していた。医師は社会的地位が高く、高収入も保証されることから、2008年のリーマンショック以降、成績上位層の間で医学部を目指す流れが強まり、志願者が急増。偏差値も多くの医学部で「東大よりも難関」と言われるほど上昇してきた。
しかし、状況は一変した。河合塾の調べによると今年の医学部の志願者数は国公立大の前期日程で前年比90%の約1万4700人と大きく減少。ここ20年で最も少ない数字になった。私立でも前年比96%の約8万3200人だった(5月12日時点判明分)。2年連続の減少だ。医学部受験関係者からは「医学部バブルは終わった」との声が出ている。志願者が大きく減った理由について岩瀬チーフはこう分析する。
「18歳人口の減少に加え、18年に女子差別などの入試不正が発覚したことによるイメージ低下が影響していると思われます。AIなどを学ぶ情報系学部・学科の人気が高まっており、現役の成績上位層で医学部を目指す受験生が減っている。他方で、医学部志望の浪人生合格につながり、志願者の総数が減ってきています」
倍率(志願者数/合格者数)も下がってきている。国公立大前期では18年に4.4倍、19年に4.3倍だったのが、今年3.9倍に。私大では18年に16.9倍だったのが、19年に13.7倍、今年は13.6倍と競争が大きく緩和されている。今後偏差値が下がる医学部も出てくると見られる。
来年の入試はどうなるか。受験関係者の間では、コロナ禍の影響で志願者が減るという見方が出ている。志の高い志願者がいる一方、危険な職場で働くことに躊躇(ちゅうちょ)する受験生や保護者も多いと見られるからだ。ある予備校の幹部はこう見る。
「いま医療現場はまさに戦場。今後も同じことが起こり得るわけで、飛び込んでいこうと思う受験生は多くないでしょう。最近の生徒は安全志向でリスクを嫌いますからね。ただ、本当に医師になりたい人には合格のチャンスが巡ってくる」
(本誌・吉崎洋夫)
※週刊朝日 2020年6月5日号より抜粋