AKB48グループは個性豊かなメンバーたちが次々に頭角を現し、旬が短いアイドルグループとしては異例の長期間にわたって黄金時代を築いた。そうしたメンバーたちの個性がより一層の輝きを放つことができたのも、常にぶれることなく真摯なまでに王道アイドルとしての生きざまを貫いた渡辺さんの存在があってこそで、その功績はとてつもなく大きい。

 個人的には、1位になった「総選挙」の翌日にインタビューをした時の印象が強く残っている。

 渡辺さんは開票イベント後、家に帰ると家族がケーキと大好物の唐揚げを用意してお祝いしてくれたことなどを明かしてくれたが、まさに“時の人”となり、仕事のスケジュールが多忙を極める中でも、インタビュー中は疲れた表情を一切見せず、終始笑顔でこちらの質問一つひとつに丁寧に、真摯に答えてくれた。

 AKB卒業後は女優としてドラマ、ミュージカルなどで活躍した。

 しかし、昨秋にはファンクラブが活動を休止。同時期からは番組アシスタントを務めていた「UTAGE!」(TBS系)にも出演しなくなったこともあり、心配する声もあがっていた。その一方で、19年上半期のNHK連続テレビ小説「なつぞら」での好演が話題になるなど、女優としての評価は落ちていなかった。

 それだけに電撃引退発表には正直驚かされたが、デビュー以来ひたむきに走り続け、多くのファンを魅了し続けてきた渡辺さんには、まずはプレッシャーやストレスから解放された生活を心から楽しんで、心身ともに健康になって新たな人生を謳歌してほしいと心から思う。

 時代を超えて王道アイドルとしての矜持を貫いたアイドル時代の偉業は、引退後もけっして色あせることなく、多くの人たちの心に刻まれ続けるだろう。

●三杉武(みすぎ・たけし)/大学を卒業後、スポーツ紙の記者を経てフリーに転身し、記者時代に培った独自のネットワークを活かして、芸能評論家として活動している。週刊誌やスポーツ紙、インターネットメディア、テレビ番組、ラジオ番組等で芸能ニュースや芸能事象の解説を行っているほか、スクープも手掛ける。「AKB48選抜総選挙」では、7年前から“論客(=公式評論家)”の一人として総選挙の予想および解説を担当。日本の芸能文化全般を研究する「JAPAN芸能カルチャー研究所」の代表も務めている。

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