新型コロナウイルスで大切な人を失うと、遺族でつながることも悲しみを分かち合うこともできない。簡略化が進んでいた葬儀の存在が見直され始めている。AERA 2020年6月8日号から。
* * *
医療事故遺族や医師らでつくる団体「Heals(ヒールズ)」は、新型コロナ患者の遺族へ相談窓口を開いている。だが、まだ遺族からの相談は一件も寄せられていない。相談窓口への一歩すら、遠い様子が見て取れる。
がん患者や遺族らの相談に乗る「マギーズ東京」の秋山正子共同代表理事(69)も、共有する相手がいないまま悲しみを抱え込むことを懸念する。
「今は死亡に伴う手続きなどで忙しくして大丈夫だと思っても、数カ月後や命日のタイミングで、心に嵐が吹き荒れるかもしれない。その時に、語り合える人を見つけてほしい」
いっぽう、「つながりたい」「祈りたい」という思いは水面下で大きくなりつつあるようだ。
近年、日本では直葬や密葬、家族葬など、別れの儀式は簡略化される傾向があった。だが、葬儀社大手の「公益社」の調査によると、新型コロナウイルスの影響で、葬儀を縮小した場合、感染拡大の終息後にどのようなことをしたいかという質問に対し、故人をしのぶお別れ会をしたいという声が最も多かったという。広報の土井佐季さんは、「新型コロナをきっかけに、葬儀の簡略化が進むとみていたが、きちんとお別れをしたい意識は強く、葬送の場が必要とされていることがわかった」と話す。
『ともに悲嘆を生きる グリーフケアの歴史と文化』(朝日選書)の著者で、上智大学グリーフケア研究所長の島薗進教授は、コロナ禍で以前と逆行する動きが生まれつつあると考えている。
「地の縁、血の縁が薄くなり、葬儀離れが進んだことにより、悲嘆を分かち合うことは少なくなっていました。けれども、新型コロナの流行で無力感にさいなまれ、多様な縁を心のよりどころにする気持ちが高まっていると思います」