「社会が立ち止まってる今、みんなで考え、みんなで語れば良い方向に変わるかもしれない。黙っていれば変わらない事だけは確かです」

 戦後私たちが、戦争の反省とともに獲得したのが、自由な言論活動である。権力の暴走をしっかりと見つめていくというチェック機能は、言論の最大の役割だろう。まさに私たちメディアはその役割を担う最前線にいる。私は本著の取材時に作家・浅田次郎さんが語った言葉を思いかえしている。

「正当な言論が弾圧されるところから、ある一部の権力が暴走して戦争が始まる。それ以外に、戦争というものは始まりようがないというね。だから、どんなときでも報道の自由、言論表現の自由っていうのは保障されていなければならない」

 浅田さんに話を聞いたのは、2013年のことだ。この頃、特定秘密保護法案が、国会での議論が十分に尽くされていないという声もある中、採決されていた。浅田さんの言葉はそのことにも重ねられていたものだった。

 戦時中のように、再び多くの声が封殺されることがあるのか。そのことを想像して言葉に磨きをかけて大切に扱っていかなければならないと思う。

 戦争が終わって75回目の夏が巡ってくる。コロナ禍の時代、玉石混淆の情報が飛び交い、何が真実かが見きわめにくくなっている今日、言葉の真の役割はこれまで以上に重い。今、私たち言論の場にいる者たちがあらためて命がけで守らないといけないのは、「表現の自由」とそこから構築される「正当な言論」であることは間違いない。火野葦平という人の人生がそのことを強く教えてくれている。

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