希代の色男といわれる平安期の歌人、在原業平が主人公とされる歌物語「伊勢物語」をモチーフに、彼の一代記となる小説を紡ぎ上げた、作家の高樹のぶ子さん。作家・林真理子さんとの対談では、ヒットの理由を探りました。
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林:新聞に連載時から話題だった『業平』(『小説伊勢物語 業平』)ですけど、すごく売れ行きがいいそうですね。
高樹:こんなに重くて分厚くて値段の高い本がなぜ売れるんだか、私もよくわからないんだけど、ネットでずいぶん売れてるみたい。きれいな挿絵の力も大きいです。
林:あとがきに書いてらっしゃったけど、「古典を現代によみがえらせるには、現代語訳にするのではなく、小説家は小説でよみがえらせなければならない」って。寂聴先生に叱られそうだけど(笑)。
高樹:あっちのほうに聞こえないようにささやいてる(笑)。小説家は小説家としてフィクションをつくっていく役目があると私は思ってるんです。現代語訳じゃ、国文学者の上澄みをもらってるようで申し訳ないし。
林:私も『STORY OF UJI 小説源氏物語』というのを書きましたけど、「宇治十帖」をフランスの恋愛小説のようにしました。
高樹:ねえ、感想を聞かせて。プロの作家の感想を聞きたい。
林:小説にすると、どんなふうに食べるのかとか、どんなふうに女の人のところに忍んでいくのかというディテールもちゃんと書かなきゃいけないけど、そこは高樹さんの手腕でねじ伏せてどんどん書いていったという感じで、すごいなと思いましたよ。在原業平って光源氏のモデルになったと言われてる人ですけど、こういう人なんだと思った。
高樹:業平の一代記で、ちゃんと考証をしながら書かれたものってあまりないんですよ。1100年ぶりに私が初めて書いたというか。
林:昔から業平が気になってたんですか。
高樹:「いい男だな」と自分の中でずっと思い続けていた。彼の一代記を誰も書かないんだったら、私、書きたいなと思って、ここ何年かうずうずしてたんです。語りの口調、語りの調べみたいなものが自分の中にできあがらないとできないなと思っていたんですが、私もそれなりに高齢化しまして、70歳を過ぎたあたりから自分の中に語りが少し熟してきて、ようやく私なりの古典との格闘ができるなと思っていたところに、新聞連載のチャンスが来たということなんです。
林:そうなんですね。