口呼吸は、ホコリやカビ、細菌やウイルスなどの異物をそのまま吸い込みやすい。鼻には「天然のマスク」ともいわれるフィルター機能があり、鼻毛や鼻粘膜によって空気中の異物が取り除かれる。風邪やアレルギーなど、さまざまな病気を防いでくれるが、口呼吸にその機能はない。
また、吸い込んだ空気の温度や湿度の調節機能が低いことも、口呼吸の弱みだ。鼻の粘膜は細く短い毛がびっしり生えた血流豊富な線毛細胞に覆われており、絶えず微量の粘液が分泌されている。鼻から吸い込んだ空気は鼻のなかを通過する間に、適切な温度と湿度に調整されて肺まで届き、肺の中をスムーズに循環できる。だが、口で吸い込むと、冷たい空気は冷たいまま、乾燥した空気は乾いたままダイレクトに肺に送られるため、肺のデリケートな細胞にダメージを与えたり、体を冷やしたりしてしまう。その結果、血流も悪くなり、コリや痛み、便秘といったさまざまな不具合を引き起こす。
脳のクールダウン機能もない。脳の至適温度は37度前後だが、多くの活動を担う脳は温度が上がりやすい。鼻呼吸をすると鼻腔内で至適温度に調整された空気が近くにある脳の前頭葉を冷やし、脳全体に冷えた血流を送ってくれるが、口呼吸ではこの冷却作用が利かない。
口呼吸の弊害は、メンタルにも及ぶ。呼吸は自律神経と密接な関係があり、浅く速くなりがちな口呼吸は、自律神経のバランスを乱しやすい。
「自律神経のバランスを整えるには深くゆっくりした呼吸が欠かせません。鼻呼吸をすればごく自然に実現できます。さらに心を落ち着けたいときは、1分間に5回、あるいはそれ以下のよりゆっくりとしたペースで鼻呼吸をするとよいでしょう」(同)
鼻呼吸は血管にもいい影響があるという。広島大学大学院耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学教授の竹野幸夫医師はこう話す。
「鼻呼吸をすると、血管を若々しく保ち、動脈硬化の進行を抑える一酸化窒素(NO)が鼻から肺へと多く送り込まれることがわかっています」