感染拡大対策としてマスクを手放せない日々が続いている。困るのはマスクをしていると口呼吸になりがちなことだ。専門家は、口呼吸の常態化がさまざまな健康被害をもたらすと指摘する。その対策とは──。AERA 2020年6月15日号は「血流」を特集。
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新型コロナウイルス感染症の流行が拡大し始めてから、マスク姿は日常的な光景になった。だが、マスクをするようになって、思わぬ体調不良に悩まされている人もいる。
関東地方の金融機関に勤める女性(35)は、ここ4カ月間に息を吸いすぎて苦しくなる「過呼吸」の発作を3回繰り返した。
過呼吸は激しい呼吸によって二酸化炭素を必要以上に吐き出してしまい、血中の炭酸ガス濃度が低下することで起きる。女性は以前からストレスや疲れを感じると過呼吸気味になることがあり、主治医にふだんからゆっくり鼻で呼吸するようにアドバイスをされていた。そのおかげかこのところ発作は治まっていたが、それが立て続けに起きてしまった。女性はこう振り返る。
「新型コロナが騒がれ始めた2月初めから、自宅以外ではずっとマスクをつけていました。息苦しさもあり、知らず知らずのうちに呼吸が浅くなり、発作につながったのだと思います」
みらいクリニック院長で内科医の今井一彰医師は、マスクの着用によって口呼吸になったことが、過呼吸の背景にある可能性を指摘する。
「マスクをしていると口と鼻が覆われて苦しいので、たくさん空気を取り込める口呼吸になりがちです。しかし、人間本来の生理的な呼吸は鼻呼吸なんです」
口で呼吸をすると、過剰に空気を取り込んでしまいがちだ。今井医師によれば、鼻呼吸をしている限り、過呼吸になることは少ないという。
「そもそも、人間以外の哺乳類は口呼吸をしませんが、人間は言葉を覚えたことで口呼吸をするようになった。食事は口から、呼吸は鼻からが本来の体の使い方。口呼吸が習慣になることでさまざまな悪影響が生まれます」(今井医師)