歯周病は歯を失う原因1位だと聞いたことがあるかもしれない。しかし、歯周病の怖さはそれだけではない。糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞、認知症など、さまざまな病気に悪影響を及ぼすことがわかってきている。その最新情報などをまとめた学会公式本『続・日本人はこうして歯を失っていく』(朝日新聞出版)が発刊された。
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糖尿病や慢性腎臓病(CKD)、心筋梗塞・脳梗塞、アルツハイマー病などを悪化させる要因の一つは口の中の歯周病かもしれない──。こんな衝撃的な事実が多くの研究で明らかになってきた。
歯周病は歯に付着した細菌の塊であるデンタルプラーク(以下、プラーク)が引き起こす炎症とそれに対する生体反応により、歯を支える歯周組織(歯肉、セメント質、歯根膜、歯槽骨)が失われる病気だ。
東京歯科大学歯周病学講座教授の齋藤淳歯科医師はこう言う。
「歯周病では、歯周組織に炎症が生じています。中等度の歯周病患者さんを調べると、その炎症の総面積は広い場合で『手のひら大』におよびます。炎症によって産生される多種類の物質(炎症性物質)には、全身に悪影響を及ぼすものもあります。そして炎症性物質、歯周病菌および細菌が持つ毒素などが歯肉の毛細血管から全身の組織や臓器に運ばれ、病気の原因になったり、悪化させたりすると考えられます」
例を挙げると──。心筋梗塞や脳梗塞患者を調べると、その多くが歯周病にかかっていることが報告されている。
また、1千人以上を対象におこなわれた研究で、重度の歯周病にかかっている人はそうでない人に比べ、心筋梗塞や脳梗塞など循環器疾患の発生率が1・5~2・8倍も高いことも明らかになった。
病気の引き金となる血管の動脈硬化の病変からは、歯周病菌が高い頻度で見つかったという報告も数多くある。
近年、注目されているのはアルツハイマー病とのかかわりだ。国立長寿医療研究センターと松本歯科大学の共同研究では、歯周病菌を口から投与したアルツハイマー病のマウスの認知機能が、投与しなかった群に比べ、著しく低下したことが確認された。