さらに認知機能が低下したマウスの脳を調べたところ、炎症性物質や歯周病菌などが作る毒素の増加が確認されたのだ。
なお、現在までに歯周病との因果関係が明らかになっている病気は図のとおり。このほか大腸がんや食道がん、すい臓がんとのかかわりを示唆する研究も出てきている。
一部の病気については歯周病を治すことで病状が改善できることもわかってきている。
代表的なものが糖尿病で、過去に発表された数多くの研究結果の解析により、「歯周病治療で改善するHbA1cは約0・4%」と報告されている。
また、がんなどの手術前に歯科医師や歯科衛生士がおこなう「口腔ケア」が術後合併症の一つである誤嚥性肺炎を減らし、入院期間を短くする効果が明らかだ。
「アメリカでは歯周病菌が産生する『ジンジパイン』という病原因子を阻害することで、アルツハイマー病の発症に関与するアミロイドβタンパクの蓄積を減らす効果が報告されました。現在、このジンジパインの阻害薬を患者さんに投与する臨床試験がおこなわれています」(齋藤歯科医師)
歯周病が怖い理由はもう一つある。日本歯周病学会理事長で、大阪大学大学院歯学研究科教授の村上伸也歯科医師はこう言う。
「原因(プラーク)を取り除く治療で歯周病の進行を止めることができても、そうなるまでに破壊されてしまった歯周組織を元に戻すことは非常に難しいのです。さらに歯周病は、一度治療が終了しても再発しやすいことがわかっており、生涯にわたって歯周病を予防する努力を続けないと、歯を失うリスクが高くなってしまいます」
■誰もが歯周病と疑うことが大事
では、どうすれば歯周病を予防できるのか。吉祥寺南歯科院長の江澤庸博歯科医師は、こう話す。
「歯周病予防で最も大切なのは原因となるプラークを徹底して取り除くこと。病気が歯肉にとどまる歯肉炎(初期の歯周病)の段階であればこの処置により、多くの方で歯周組織を元に戻すことが可能です」