空豆のような形をし、肋骨(ろっこつ)の下、背中側に左右に一つずつある腎臓。血液を濾過(ろか)して不要な水分や老廃物を尿にするのが主な仕事という、実に地味な役割だが、この臓器こそ老化しやすい臓器であり、状況によっては人工透析が必要になるような深刻な病気につながりかねない。
長年、移植医療に携わり、これまでに1千例以上の腎臓の移植手術をした、東邦大学名誉教授の相川厚医師はこう話す。
「腎臓にはたくさんの血管が集まっているため、腎臓の老化は血管の老化とともに進みます」
その影響を特に受けやすいのが、血液から尿の素を作っている糸球体という組織だ。糸球体は毛細血管の固まりで、一つの腎臓に約100万個ある。腎臓に血液を送る動脈は、年齢とともにしなやかさが失われ、硬くなっていく。いわゆる動脈硬化と呼ばれる状態だが、そうすると糸球体に血液が届かなくなり、硬く、小さくなっていく。
こうした糸球体を硬化糸球体というが、ある研究によると、すべての糸球体に占める硬化糸球体の割合は、20代ぐらいだと3%程度だが、70代になると70%にものぼっていた。
「残った糸球体は硬化した糸球体の分まで働かなければならず、どんどん負荷がかかっていきます。その結果、正常な糸球体まで壊れてしまうのです」(相川医師)
腎臓の機能が低下すると、尿の量を調整することが難しくなる。その結果、体がむくんだり、反対に尿量が増えて脱水を起こしたりする。糸球体の硬化が進行すると腎硬化症になり、腎機能が失われれば腎不全へとつながる。
そうなると、生活改善や食事制限、投薬では対処できず、人工透析や移植が必要になる。近年は、腎硬化症で人工透析を受ける高齢者が増えている。
では、腎臓の老化のスピードを緩やかにするにはどうしたらいいだろうか。
「血管の若さを保つ対策が予防につながる」
と相川医師は指摘し、こうアドバイスする。
「喫煙や過度な飲酒、甘いものの取りすぎは避けるべきです。生活習慣病があると腎臓の老化を早めやすいので、糖尿病や脂質異常症がある人は改善を」