あの時、警備員さんが間違えて僕のいる会議室に電話をしてなかったら、僕は「めちゃイケ」をやってなかったので、時折思い出してはあの警備員さんに感謝します。

 話変わって。僕は飲食店をやっています。「メシ酒場鈴木ちゃん」というお店で、そこの店長を昌平という元力士の人にやってもらっています。とても人柄がよく、彼に会いたくて、話したくて、店に来る客も多い。

 で、去年のお正月、僕と妻と息子で、和歌山に旅に行きました。「アドベンチャーワールド」というパンダで有名な動物園に行こうということになりました。冬の時期は夏に比べるとお客さんも少ない。ホテルに着いて、アドベンチャーワールドに行く前に、近くのおみやげ屋に行くことにしました。店内は結構空いていました。そこで「あの……」と声をかけられました。1人の女性。その女性がうちの店長、昌平の姉だったんです。ビックリしました。まさか僕がやってる店の店長のお姉さんとこんなところで会うなんて!そこで、お姉さんと僕と妻で写真を撮影しました。

 もっと人の多い観光地で会うならわかるのですが、和歌山のあまり人がいないおみやげ売場で会うなんて。そんなことがあると、店長の昌平とは前世でもなんか繋がりがあったのかなとか思ってしまいます。

 あとで聞いた話ですが、お姉さん、がんを患い、当時、ちょっと良くなり、旅行に来ていたらしいのです。

 あれから、一年半。お姉さんは先日、天国に旅立ちました。がんばって闘いましたが、残念な結果になってしまいました。43歳でした。

 大阪で行われた告別式に行ってきました。僕は親より先に旅立った人の式に行ったのが初めてでした。とても胸が苦しかったです。

 葬儀の終わり、葬儀場のモニターに、お姉さんの写真が音楽とともに流れていきました。子どものころからの写真。そして、その写真の最後の方に出た写真が、和歌山で僕と妻と一緒に撮影した写真でした。たまたま出会った時に撮影した写真。あの時の出会いをすごく喜んでくれたと。あの写真をとても大切に思ってくれていたんだなと。

 偶然が人に勇気や喜びを与えるときがある。偶然には意味がある。偶然だけど偶然じゃない。そう言う出会いをもっと大切にしようと強く思いました。

 お姉さん、お疲れさまでした。

 また、いつか。

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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