「配達員を始めたのは、(年間約250万円かかる)遠征費くらいは自分で捻出したいと考えたから。皮肉にも、メダルを取ったとき以上にメディアに取り上げてもらい、多くの反響がありました。中には批判もありましたが、それ以上に温かいメッセージをいただきました。それで、『頑張っていいんだな』と思えたことは大きかったです」
そして、こうも続けた。
「これまでアスリートはスポーツだけをしていればよかったですが、世界中が未曽有の事態になって、それだけでは価値が見いだしづらくなることが証明されてしまった。これは悪い意味ではなく、自分自身の価値を測るターニングポイントになるかもしれない。僕がウーバーイーツを始めたこともそうですが、これからのアスリートは競技だけに頼らず個人というものを形成していく必要があることを気づかされたような気もします」
コロナ禍で練習拠点だったナショナルトレーニングセンターが閉鎖されていた時期にユーチューバーとしてもデビューした。
「きっかけは、アスリートもしっかりと意思や意見を持って競技に臨むことが必要だと思ったから。自分に共鳴してもらうためには、まず自分を知ってもらわないと始まらないですからね」
(スポーツライター・栗原正夫)
※AERA 2020年6月29日号