3月2日、日本中の子どもたちが突如、学ぶ場所を失った。同日、宝槻泰伸さんが経営する探究学舎はオンライン授業を無料配信。さらに4月7日には双方向型のオンライン授業の体制を整え、子どもたちに学びと交流の場を作った。学校の勉強を教えるのではなく、探究心を育てる塾。宝槻さん自身が、父から学んだことが原点だ。
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マイクを握ったまま、探究学舎代表の宝槻泰伸(39)は泣いていた。
「君という畑に、ジョブズの人生、驚きや感動、あるいは憤りや葛藤。そんな種がまかれたんじゃないかな」
全国一斉休校が突如2月27日に発表され、29日に総理の安倍晋三が会見。休校がスタートした3月2日。東京都三鷹市にある同塾のスタジオからYouTube上でオンライン授業の無料配信を始めた。リアルタイムで4千人以上が集まった。
スティーブ・ジョブズを題材にした授業。病魔に侵されながらiPhoneを生んだ激動の人生に迫り「ジョブズはなぜあきらめなかったの?」と画面の向こうの子どもたちに問いかけた。
(仕事が好きだから)(世の中のためになると思った)。ピュアな声がチャットで次々書き込まれる。
「子どもたち、すげえな」
ぐすっ、ぐすっ。早逝した天才に向き合う姿に心打たれた宝槻が鼻をすするたび、「泣いちゃう」「感動!」と共感の嵐が巻き起こる。塾生らしき子たちは宝槻の愛称「やっちゃん」を連呼(正しくは連打)し、「頑張れ!」と励まし続けた。
社員たちも宝槻の目の前で泣いていた。
「オンラインでは熱量が伝わらないのではないかとみんな不安だったが、やってみたらビンビンに届いた。あそこでオンラインでもやれる自信が増した。号泣学舎だと親たちにからかわれたけど」と宝槻は笑う。