

演技者として幅広い経験を積み重ねてきた長澤まさみと阿部サダヲが、7月3日公開の映画「MOTHER マザー」で初共演を果たした。AERA 2020年7月6日号から。
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17歳の少年はなぜ祖父母を殺害したのか──。「MOTHER マザー」は、実際に起きた事件に着想を得て、母子関係のあり方を問う。主演の長澤まさみが演じたのは、金を浪費しては借金を重ね、男を渡り歩く自堕落なシングルマザーの秋子。内縁の夫・遼を阿部サダヲが演じる。
長澤まさみ(以下、長澤):阿部さんとずっとお仕事をしたかったんです。だから、このお話をいただいた時は「ヤッター!」という気分でした(笑)。
阿部サダヲ(以下、阿部):僕は「長澤さんが秋子をやるんだ」って思いましたね。意外性があったからこそ、「じゃあ僕も」と受けました(笑)。こういうシリアスな役柄同士で共演できることはなかなかないだろうと思いましたし。僕はこれまでひどい男を演じても、どこか救いがあったんですが、遼ほど暴力的で救いのない役は初めてでした。長澤さんも秋子の役作りは大変だったでしょう?
長澤:スタッフのみなさんには、本当に助けてもらいました。メイクさんに衣装さんに、大森立嗣監督にも。秋子役は挑戦というか、私は家庭もないですし子どももいませんので、まだ秋子の立場にはいません。でも、私は女性ですし、この物語はなぜか人ごとではなかったんです。気になる作品だったんですよ。男性と女性では感じ方が違うと思いますが、私は女と男の役割は必ずある気がしています。そういう本能的なところで気になったのかもしれません。秋子と息子の関係を無視できなかったところがあります。二人の関係に感動したわけではないんですが、ジーンと胸に残るものがありました。
阿部:母親役は初めてだっけ?
長澤:演じたことはあります。今回、事務所の先輩にお会いした時にこういう役をやるんですとお話ししたら、とてもいい言葉をかけてくださいました。「お母さんもお母さんをするのは初めてだから。子どももお母さんのもとに初めて生まれて成長していくけど、親も教えるのは初めてで、お互い初めて同士なんだよ」と。撮影ではその思いを大切にしていました。撮影といえば、阿部さんは現場に来てサッと演じてサッと帰るという印象があります。風みたいでしたね(笑)。すぐにどこかへ行ってしまうし、かと思えば、すぐその場になじんでしまう。面白かったです。