発症すると後遺症が残ることの多い脳梗塞だが、適切なリハビリによって後遺症の回復・軽減や社会復帰をめざすこともできる。最近では、発症から年数が過ぎた後遺症にも効果のある方法も出てきているという。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』で、リハビリの専門医に話を聞いた。
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脳梗塞は、症状が出たらすぐに救急車を呼び、専門の病院で治療を受けることが何より重要だ。詰まった血栓を溶かす血栓溶解療法は発症から4.5時間以内、血栓を回収する血栓回収療法は8時間以内ならば、効果が期待できる。しかし、さまざまな理由でこれらの治療を受けられなかったり、受けてもすでに壊死した部分が広がっていた場合などには、残念ながら後遺症が残ってしまうことも多い。
後遺症は脳のどの部分が損傷を受けたか、どの程度の損傷かによって、障害もその軽重も異なる。最も一般的な障害は、身体的な麻痺だ。麻痺は、損傷した脳とは反対側、すなわち損傷したのが右脳の場合はからだの左側、左脳の場合はからだの右側に出る。また、神経の異常で筋肉が緊張する筋緊張、麻痺により関節が動かしにくくなる拘縮、感覚障害、異常感覚なども多く起きる。
構音障害や失語症といった言葉に関する障害、ものがのみ込みにくいなど嚥下機能の障害が出ることも多い。構音障害は、ろれつが回らない、話しにくいなど「発音」の障害だ。読み書きには問題がないため、紙に書けばコミュニケーションが取れる。一方、失語症は「読む・聞く・話す・書く」という四つの言語機能の一部またはすべてに何らかの障害が出る。言葉が出てこない、口に出すと違う言葉になってしまう(錯語)、意味がわかっていても読み間違える、相手の話していることがわからないなどの症状だ。構音障害と失語症が両方起きることもある。
高次脳機能障害も重要な後遺症の一つである。新しいことが記憶できない、一定期間の記憶が思い出せないなどの記憶障害、物事を順序立てておこなうことが難しい、臨機応変の対応ができないなどの遂行機能障害、感情のコントロールが難しいなどの社会的行動障害など、さまざまな症状がある。怒りっぽくなったなど人が変わったように見られることもあり、社会復帰後の生活に支障が出る場合も少なくない。原宿リハビリテーション病院筆頭副院長の稲川利光医師は次のように話す。
「高次脳機能障害は一見正常に見えることもあるので要注意です。特に軽い場合には障害が自分でも認識できないため、職場で孤立してしまったり仕事が続けられなくなることもあります。リハビリの段階から、高次脳機能障害がないかどうか注意深く観察しておく必要があります」