その後イチローは研究、練習を重ねて最強外野陣の一角を担うまでになる。
「春季キャンプの時にイチローと田口の2人が『特守を一緒にさせてください』と来た。2人は身体能力に頼った効率悪い捕球だったので、先にバテた。それ後くらいから打球の追い方を熱心に研究するようになった。簡単にできることではないが、数年後には身につけた。やはりあの2人は一流だった」
打球が来たら、落下点を素早く判断しボールを見ないで落下点まで一直線に走る。この『目切り』ができるかどうかが外野手にとって最重要。当時のオリックス外野陣は本西によって鍛え上げられたとも言える。
ーー送球に関する意識の違い。レーザービームは時に“不要”?
「打球判断と捕球に関しては2人とも双璧。強いて言えば送球は新庄が上かもしれない」
イチロー、新庄ともに地肩の強さは言うまでもないが、送球までの早さに差がある。
「送球は『早く、強く、正確』の3つが大事で、新庄はすべてが揃っている。強肩だが状況によっては素早いモーションからバウンドで送球することもいとわない。イチローは『レーザービーム』と取り上げられた。魅せることも求められ、本人も遠くまで届く『レーザービーム』での送球を重視した。投げるまでのテイクバックが大きくなり、時間がかかるようになった。特にメジャーでのイチローはそういった部分での『早く』を重要視していなかった。もちろん、やろうと思えばできただろうけどね」
『レーザービーム』は糸を引くような球筋で長い距離を届かせる送球のこと。だが状況によっては必要ではない時もある。送球は走者を刺すこと、進塁を許さない、という2つの目的があるからだ。
ーー試合中のドヤ顔とまさかのヘディング。
本西にはイチロー、新庄との守備に関する忘れられないエピソードがある。
本西氏が99年に日本ハムに移籍し、オリックス・イチローと対戦した時のこと。当時すでに周囲から『見られる』ことを意識してたのか、平凡な打球などは半身になって身体が流れながら捕球していた。
「練習時、『少し雑じゃないか? 子供とか沢山の人に影響があるぞ』と苦言を呈した。すると試合中のライトフライを捕球して、相手ベンチにいる僕に向かって、ドヤ顔でオッケーポーズするんです。笑ってしまった」