


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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タイトルから人を食っている。宣伝コピーは“ハート・ボイルド”コメディー。実際、観れば映画の楽しさを味わうことができる。
市川進、御年74。トレンチコートにブラックハットのいでたちで、夜な夜な大都会のバー「Y」に出没。旧友のヤメ検エリート石田や元ミュージカル界の歌姫ひかると共に酒を飲み、情報交換をする。彼はちまたでうわさの伝説のヒットマン。だが実は、ただの売れない小説家で……。
市川を演じるのは石橋蓮司さん。映画主演は19年ぶりだ。阪本順治監督は言う。
「蓮司さんはヤクザの役もやれば検事役もやる。役の振り幅がすごく広い。せっかくだからハードボイルド的なものと非常に喜劇的なものと、蓮司さんが持っている両方を一本の映画で見せたいという気持ちがありました」
明るいうちはゴミ出しに洗濯、妻のブラジャーを気遣いながら干すなどきちんと主夫業をこなす。ところが夜になると一転、トレンチコートにブラックハットで紫煙(しえん)をくゆらす、そのギャップ。
5年くらい前、脚本家の丸山昇一さんから今回の元となる粗筋をもらったが立ち消えに。ところが、亡き原田芳雄さんの自宅に石橋さん、岸部一徳さん、桃井かおりさん、大楠道代さん、佐藤浩市さん、江口洋介さんと集まった時のこと。桃井さんが阪本監督に、「(原田さん主演で『大鹿村騒動記』を撮ったんだから)今度は蓮司さんで一本撮ろうよ」と声を掛けた。
「『実は僕も考えていました』と言ったら、桃井さんが『みんな出るよね?』と言ってくれたんです。その後も柄本明さんが手を挙げてくださるなど参加者が増え、そのたびに丸山さんが出演者を単なる顔出しゲストではなく、そこにいる意味を持つように脚本を書き直してくれました」
「蓮司さんと共演することの喜びにこれだけの俳優が集まった」と阪本監督が言うように、映画からは演じる側の楽しさが伝わってくるよう。だが決して仲間内映画ではない。