小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
6月16日、モデルで俳優の水原希子さん(29)は、「日本人感を出すのをやめてほしい」(現在は削除)という投稿に対し、自身の考えをツイートした(撮影/写真部・高橋奈緒)
6月16日、モデルで俳優の水原希子さん(29)は、「日本人感を出すのをやめてほしい」(現在は削除)という投稿に対し、自身の考えをツイートした(撮影/写真部・高橋奈緒)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】水原希子さんは自身の考えをツイートした

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 水原希子さんに向かって「日本人感を出すな」という旨のツイートをした匿名アカウント。すでにさまざまに批判されているけれど、剥き出しの差別感情にゾッとします。

「お前は日本人か? 本物か? 本物でないなら偉そうにするな」というのは、国籍差別そのものです。

 以前、ある講演でオーストラリアと日本を行き来していると話したら、年配の男性が挙手して「あなたは日本の国籍があるのか」と尋ねました。

 国籍を尋ねるのは相手のプライバシーに踏み込む無礼な行為。まるで検問でもするかのような口調にあっけにとられて「ありますが……」と返すと、「ならよかった、安心した」と。全身の血が沸き上がるような怒りを感じました。それがいかに差別的な発言かを伝えたかったけれど、時間がなくて叶わなかったことを今でも悔やんでいます。

 ではもし私が「いいえ、日本国籍ではありません」と答えたら、あの男性はなんと言うつもりだったのか。だったら日本から出て行け? 日本人でもないくせに偉そうに話すな? 見た目が違う人や、外国にゆかりのある人にああして尋ねて回っているのだろうか。お前、日本国籍あるのか?って。きっと怖い思いをした人がいるでしょう。

 オーストラリアでは、約30%の人が外国生まれ。複数の国籍を持つ人や、オーストラリアの市民権はないけれど永住資格のある人など、いろいろな立場の人がいます。国籍取得に至るまでもそれぞれに事情があり、非常に複雑です。移民同士で打ち明け話をするのでもない限り、日常会話で「あなたはオーストラリア国籍があるのか?」といきなり聞くことはありません。「お前はよそ者」「ここはお前の国ではない」は外国人嫌悪、排外主義の表れ。悪気なく単なる興味で聞いた場合でも、相手にとっては差別になり得ることを知っておくべきです。

AERA 2020年7月13日号

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小島慶子

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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