タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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水原希子さんに向かって「日本人感を出すな」という旨のツイートをした匿名アカウント。すでにさまざまに批判されているけれど、剥き出しの差別感情にゾッとします。
「お前は日本人か? 本物か? 本物でないなら偉そうにするな」というのは、国籍差別そのものです。
以前、ある講演でオーストラリアと日本を行き来していると話したら、年配の男性が挙手して「あなたは日本の国籍があるのか」と尋ねました。
国籍を尋ねるのは相手のプライバシーに踏み込む無礼な行為。まるで検問でもするかのような口調にあっけにとられて「ありますが……」と返すと、「ならよかった、安心した」と。全身の血が沸き上がるような怒りを感じました。それがいかに差別的な発言かを伝えたかったけれど、時間がなくて叶わなかったことを今でも悔やんでいます。
ではもし私が「いいえ、日本国籍ではありません」と答えたら、あの男性はなんと言うつもりだったのか。だったら日本から出て行け? 日本人でもないくせに偉そうに話すな? 見た目が違う人や、外国にゆかりのある人にああして尋ねて回っているのだろうか。お前、日本国籍あるのか?って。きっと怖い思いをした人がいるでしょう。
オーストラリアでは、約30%の人が外国生まれ。複数の国籍を持つ人や、オーストラリアの市民権はないけれど永住資格のある人など、いろいろな立場の人がいます。国籍取得に至るまでもそれぞれに事情があり、非常に複雑です。移民同士で打ち明け話をするのでもない限り、日常会話で「あなたはオーストラリア国籍があるのか?」といきなり聞くことはありません。「お前はよそ者」「ここはお前の国ではない」は外国人嫌悪、排外主義の表れ。悪気なく単なる興味で聞いた場合でも、相手にとっては差別になり得ることを知っておくべきです。
※AERA 2020年7月13日号