生田 劇場で同じ空間を共有している場合と、演者は舞台、観客は画面の向こう側という別々の空間にいる場合では、時間の流れ方が違うと思います。演出の1つに暗転のシーンがあるんですが、煌々と灯りがついているご自宅で観ているお客様はどう感じるんだろうとか、配信になってみないと分からないこともたくさんあって。私のお芝居はしっとりと静かな世界観なので、最初からどうやって観客を惹きつけるか、脚本・演出の根本宗子さんや海宝さんたちと話し合いながら作っています。

——―舞台の上でも、他の俳優と近づきすぎないソーシャルディスタンスが守られるそうですね。

生田 お稽古の間、俳優同士の距離をつねにチェックしている方がいます。私たちはこっそり「ソーシャルディスタンス・ディレクター」と呼んでいるんですけど、その方の指示で、立つ位置が変わったり、距離はOKでも体や顔の向きを変えたり、演出も影響を受けています。そんな演出の変化も面白いです。

妃海 私たちの「CALL」では出演者が7人くらい舞台に上がるので、シーンによっては密になりそうなときがあります。でも、近づけないことを逆手にとって、脚本・演出の三浦直之さんは、距離の遠さに意味がある演出をされるんです。たとえば、人って、ジャケットを誰かに渡すとき、手と体を近づけますよね。でも、ジャケットが汚かったり、臭かったりしたら、なるべく離れて受け渡ししたいと思うでしょう。そんなふうに気持ちの変化で体の距離も自然と離れるような演出が随所に出てくるんです。

——―カメラで撮影され、ライブ配信されることは、演技にも影響しますか。

生田 これまでの舞台では、顔の細かい表情より、歩く距離や体の向きなど、体を大きく使うことで感情を伝えていました。でも、今回はいつもの舞台のつもりで動くと画面から外れてしまうかも。顔の表情もTVドラマで演じているような意識が必要かもしれません。そんな表現の違いも考えながら演じています。

妃海 そうですね。カメラが入ることで、逆に舞台のルールはあまり気にしなくてもいいのかなと思っています。舞台では、体の正面が客席を向くように意識したり、小道具の持ち方を工夫したり、約束ごとがあります。でも、今回の舞台は複数のカメラが撮影してくれますし、カメラのほうが動いて伝えたいシーンをお客様に届けてくれます。そのぶん、客席に背を向けて演技したり、客席に降りたり、もっと自由な演技ができると思っています。

——―1回限りの舞台ですから、一瞬も見逃せないですね。

生田 初日の舞台を中継するのは初めてのことなので、どんな30分になるのか、私たちも楽しみです。今は客席に誰もいない状態でお稽古しているので、リラックスできているんですけど、当日は間違いなくカメラを意識すると思います。7月1日の製作発表会で海宝さんとデュエットを披露したんですけど、記者さんとはいえ、客席にずらりと座っているお客様の前で歌うのは久しぶりだったので、めちゃくちゃ緊張しました。そんな私たちのドキドキしている緊張感も一緒に味わって欲しいです。

妃海 実験を意味する「ラボ」がネーミングになっているように、11日の配信では、どんな化学変化が起こるのか分からない部分もあります。そのワクワクする瞬間の目撃者になっていただければ。空間は離れていても、時間を共有する新しい舞台をお客様と一緒に作っていけたらいいですよね。私自身がこの舞台を通して「コロナ禍だからこそ、こんなことができるんだ」と勇気をもらったので、お客様にも「今後こんな新しいことをやってみよう」というパワーにつながれば、と願っています。

(構成/ライター・角田奈穂子)

AERAオンライン限定記事

■「TOHO MUSICAL LAB.」は2020年7月11日(土)19時より配信

「Happily Ever After」
脚本・演出: 根本宗子
作詞・作曲・音楽監督:清竜人
出演: 生田絵梨花、 海宝直人
踊り子:riko

「CALL」
作詞・脚本・演出: 三浦直之
作曲:夏目知幸
出演: 木村達成、 田村芽実、 妃海風、森本華

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