延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー
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「緊急事態軽演劇八夜」から
「緊急事態軽演劇八夜」から

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、コロナに負けない演劇人たちについて。

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 東京には小劇場から大劇場まで多くの劇場が集中している。「いま、ここにしかない」つながりを求めて観客は劇場に通う。俳優は舞台で抱き合い、叫び、静かなため息を漏らし、歌い、踊ってきた。観客は演者と同じ時間と空間を分かち合い、汗まで飛んでくる身体性を味わう。「近づかない、向き合わない」というソーシャルディスタンスの概念は演劇には不向きだ。コロナ禍で多くの舞台演劇が中止に追い込まれた。

 誰もいない客席、俳優のいない暗闇の舞台。そこにはただ虚ろな空間しかない。

 先日、「日本の演劇を明るく照らす」を旗印に、盟友・長塚圭史が福田転球、大堀こういち、山内圭哉と結成した新ロイヤル大衆舎の「緊急事態軽演劇八夜」を観た。

 新ロイヤル大衆舎といえば、北条秀司「王将」の三部作を80席足らずの下北座・楽園で上演(楽屋は何と下北沢の路上だった!)、演劇ファンの間に大きな話題を振りまいた演劇ユニットだ。

「名作・珍作・異色作を毎日一本ずつライブ配信で紹介公演しちゃおうじゃないかというのです。(略)あくまでも本演劇の手前の読み語り形式の軽演劇でございますが最大限、密を避けた状況でしかし濃密でお届けしたいと目論んでおります」。どんな状況にあっても、彼らは何かやらかすに違いないと思っていた。長塚圭史のこんな檄文に胸を躍らせオンラインで決済を済ませ(結構時間がかかってしまった!)、パソコン画面を開いて、6月11日、開演時間の夜7時を待った。

 当日の演目は、28歳で戦病死を遂げてしまった鬼才・山中貞雄脚色、長塚圭史潤色による「盤嶽の一生」。浪人・盤嶽の、お人好しだが凜々しい生き様を描いた無声チャンバラ映画である。画面の下手に座った山内圭哉が奏でるアコースティックギターがジプシー音楽のように切なく力強く響きわたり、主人公、素浪人の愚直ともいえる優しさが、コロナ災厄の中で仲間と支えあう姿勢を教えてくれた。画面越しに演者4人の鮮血が見えた気がした。それは悲壮な血ではなく、観客を相手に演じる役者としての喜びの鮮血だった。「いやはや、稽古もリモートだからはじめは慣れなくて面食らった」と演者は笑い、それすらもネタにするおおらかで痛快至極のチャンバラ劇だった。

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