では、成約価格が下落していない状況はどう考えるべきか。それについて、私は「売り手側が粘っている結果」だと捉えている。つまり「売れなくても価格を下げずに売り続けている」ということだ。このガマンがいつまで続くかが今後の焦点となるだろう。

 では、最後の「3」。被災したタワマンの現状分析に入ろう。

 前述の通り、当該タワマンにおいて、被災後の中古取引は確認できない。少なくとも、指定流通機構に成約の登録はない。ただし、まったく取引が成立していないかというと、私は実態は少し異なると思っている。

 次のようなことが考えられるからだ。

A 取引は成立しているが、故意に登録されていない
B 再販業者が買い取っている

 例えば、周辺の他のタワマンと比べて異様に安い価格で取引が成立した場合、仲介業者が故意にそれを登録しないことはよくある。もし、その安い成約価格を登録してしまうと、周辺の市場の調和を乱したとして、同業者から迷惑がられるからだ。そのため相場からかけ離れた成約は登録されないことが多い。なお、登録しなくても仲介業者に対する罰則はない。

 再販業者が買い取った場合も同じ。彼らの買い取り相場は6~8割程度。この被災タワマンなら、6割以上では買わないだろう。仮にそのレベルで取引が成立したとしても、事例を登録すれば相場を混乱させる。だから当然、その成約事例も登録されない。

 被災したタワマンのような総戸数が500戸を超えるマンションの場合は、年に10~15戸程度は売り出される。過去の取引事例を調べてみると2017年の1月から台風19号に襲われる前の2019年の8月までに34件の成約が登録されている。おおよそ1カ月に1件の割合で取引されていた。しかし、2019年10月以降の成約はまったく登録されていないのだ。この「ゼロ」という数字は一体何を物語っているのか。

 マンション市場は新築、中古を問わず、まもなくコロナ不況の波をかぶる。とりわけ、東京の湾岸エリアや武蔵小杉のタワマンには厳しいしわ寄せが来るはずだ。

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購入層は「ニューカマーのプチ成功者」