一方、74年のアニメ作品『ペイネ 愛の世界旅行』は正反対の感触を持つ仕上がりだ。フランスのイラストレーター・画家のレイモン・ペイネの原作を元にしたイタリア制作の長編アニメ映画で、モリコーネはここでは愛らしいタッチのキャラクターに合わせたロマンチックで甘い雰囲気を表現。特に知られるテーマ曲(「Forse basta 」)の夢見心地なメロディーは、いつ耳にしてもその柔らかな風合いに心が満たされていく。かと思えば、快活なマーチング・スタイルの「Amore e birra」では躍動的な旋律とアレンジで、ブライトでカラフルな風景を演出。モリコーネの名前をさらに広く知らしめた88年の『ニュー・シネマ・パラダイス』のサントラ同様に、モリコーネの優美で情緒的、ヒューマンな感覚が味わえる作品の一つだ。

 28年、ローマに生まれたモリコーネはやはり最期の地もローマだった。地元のサンタ・チェチーリア音楽院で作曲技法を学び、数々の作品制作でコンポジションを極めた。それでいて、もし作曲家になっていなかったら、チェスプレーヤーになっていただろうといったウィットに富んだことも折に触れて発言するような粋な男。そんなモリコーネの死去に際し、世界の多くの人気ミュージシャンも追悼の意を表している。メタリカ、ニュー・オーダー、チャンス・ザ・ラッパー、マッシヴ・アタック、そして映画監督のマイケル・ムーアまで……。90歳になってもコンサートを行うなど精力的に活動をしていただけに、転倒による大腿骨骨折の影響による合併症で亡くなったことが本当に惜しまれる。改めてご冥福をお祈りしたい。
(文/岡村詩野)

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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