作家で詩人の池澤夏樹さんと、その娘で声優・歌手、エッセイストの池澤春菜さんが、好きな本について語りつくした『ぜんぶ本の話』(毎日新聞出版)が出版された。読書をこよなく愛する父娘が、同書への思いなどを語った。AERA 2020年7月27日号の対談記事を紹介する。
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──この春、河出書房新社の『日本文学全集』全30巻が完結しました。ご自身でも『古事記』の翻訳をされています。
池澤夏樹:『世界文学全集』の編集が終わり、「日本もやらない?」と言われた時はできると思えませんでした。しかし東日本大震災が起こり、東北に足を運ぶようになって考えが変わったんです。こんなに自然災害の多い国で生きてきた日本人とは何だろうかと興味が湧きました。
──今度はコロナ禍です。在宅時間が長くなり、読書量が増えたと言われるいっぽう、出版も書店も不安定です。
池澤春菜:いま、お洋服のアウトソーシングサービスがあるんです。定額払うと、好みのテイストを組み合わせて送ってくれる。それを1カ月着たら返す。自分の家にクローゼットを持たなくていいし、クリーニングも考えなくて済む。本も「持たない」ようになるかもしれませんね。
夏樹:「日本の古本屋」というサイトなんてそれに近いですね。たいていの本はあそこで見つかります。ぼくは本を書く際に資料本を集めますが、終わったら古書マーケットに返します。また必要な人の手に渡ればいい。
春菜:アマゾンなんて午前中に注文して午後届いちゃいますからね。そのうちドローンを使って24時間配達なんてあるかも。
──本の『夜間飛行』ですね(笑)。
春菜:今回の本を「安易だ」と言う人がいました。「父親の名前で飯を食うのか」と。「さんざん読んで書いて、自分のスタイルもできてきて、そろそろ父と正面から本の話をしてもいい頃合いだと思いました。いつになったら許されるんでしょう?」と問い返すと、「一生許されないでしょうね」と。それを聞いてラクになりました。伝わりっこないんだとわかりました。