李さんによれば、全ては1990年代後半の金大中政権から始まったという。
「『一台の車より一本の映画を売ろう。その方が今の韓国を世界にわかってもらえる』。金大統領のそんな掛け声に、政府が文化予算を割いたのです。ファンドを立ち上げ、そこに一般投資家も入っていった。イニシアティブをとったのはアメリカ留学帰りの若者たちで、MBA(経営学修士)取得組が中心となってファンドの運営に携わり、システムを作った」
この動きが『パラサイト半地下の家族』のカンヌ国際映画祭パルムドール、そして、アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門受賞に結実した。ちなみに韓国の若者エリートは欧米を留学先に選ぶのが主流。日本が選ばれることは少なく、その理由は大学の世界ランキングが相対的に低いのと、日本の大学では英語が通用せず、グローバリズムから外れていると見られているからだそうだ。
『愛の不時着』を観終わってしまった読者のために、他にこれはという作品はありませんかと李さんに聞くと、「『夫婦の世界』ですね。これも間違いなく1位になる。『愛の不時着』を抜くと断言できます」
まだまだ熱い韓流ブームが続きそうだ。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2020年7月31日号