池上:ドイツの製薬会社がワクチン開発を進めていたら、アメリカが開発費を出す代わりにワクチンを独占したいと言い出したので、ドイツ政府が慌ててその製薬会社の株を取得するということがありましたね。そもそもEU(欧州連合)という枠組みの中でやらないといけないのを、ドイツが単独で株を買って独占するということになると、非常に激しく醜いワクチン争奪戦が起きるでしょう。日本の大阪大学などの開発がうまくいくのかどうかというのも含めて、ワクチンを巡る争いというのは、注意深く見ていく必要があると思います。
佐藤:それはそのとおりですね。自国で開発するという力と同時に、外交力というか、むしろインテリジェンス能力というところで、ワクチンを盗み出すことも含めて注目したいですね。どの国も価値は生命、身体、財産の順番ですからね。生命にかかわることであれば、何をしてもいいということになりますから。だから、表向きの、きれいな外交での協力の世界だけじゃなくて、データを盗んでくる、製造法を盗んでくるという諜報(ちょうほう)活動を含めて、それは仁義なき戦いの始まりですよね。国際協調をしながら、抜け駆けをしていこうとするわけです。協力と抜け駆けは同時進行するのです。各国のエゴイズムがますます強まってくるなか、WHO(世界保健機関)のような国際機関は、機能不全を起こしていてもやはり必要ですね。
池上:WHOには早期警戒システムのようなものがありますからね。世界中のツイッターやフェイスブックで新しい疫病ふうのものがあると、すぐに早期警戒システムが発動されるんですよ。中国が武漢で新型肺炎患者がいたというのを自発的にいち早くWHOに報告したって言ってますけど、実際はそうではなく、WHOが、中国の武漢で何かおかしなことが起きている、何が起きているんですかと中国当局に問い合わせをしたら、中国が渋々認めたというのが今回の真相なんですよね。そういう意味では、早期警戒システムでWHOが機能していた。ただし、その後、事務局長がやっぱり中国に忖度(そんたく)しておかしなことになってくるということですよね。
(司会・二階堂さやか)
※週刊朝日 2020年7月31日号より抜粋