佐藤:あとイスラエルについてもう一つ言えるのは、情報機関(対外インテリジェンス機関のモサドや国内治安機関のシンベト)に対する国民の信頼感が高いということです。今は感染症対策という形でスマホでの情報管理が行われているけど、シンベトが暴走して国民の日常生活を監視することはないという皮膚感覚がある。モサドやシンベトは徴兵された軍隊の中からモラルの高い人をリクルートするし、全体がイスラエル村みたいなところだからシンベトの顔が見えているんですよ。そのへんは日本と違うところですよね。

池上:今回はマスクや医療器具が足りなくなった時に、モサドのネットワークを使っていち早く手に入れたと言われていますよね。

佐藤:彼らはそういったことは非常にうまいし、モサドを辞めた後はだいたいビジネスマンになるんですよ。そのネットワークがあって、いざという時は親元のモサドも親身になります。これはイスラエルの情報機関の特殊性ですね。

池上:日本がまねできることではないですけどね。

佐藤:日本は日本で独自の対応をしています。アメリカやフランスは感染拡大を防ぐために法律や条例で移動制限をしたのに、日本は外出自粛の要請はしても法による規制はしませんでした。公共の福祉という形で縛りをかけて立法措置を取ることができたのに、なぜしなかったのか。理由は二つあると思います。1番目は必ず違憲訴訟を起こす人がいるから。もし違憲ということに一審ででもなったら、内閣が倒れかねない。あるいは、いずれにせよこの種の裁判は最高裁までいくから、5、6年も担当する官僚の身になってみたら、絶対にやりたくないと思います。2番目は、非常事態になった時には日本には翼賛の思想がよみがえってくるからです。翼賛というのは、天子を自発的に支持し行動することです。この翼賛は、東日本大震災の時には「絆」、あるいは「ボランティア」という言葉に変わりました。今回は「自粛」という形になりました。これによって国民の同調圧力で、法的措置を取るのとほぼ同じ効果が期待できるわけなんです。自粛警察、自警団、隣組、あるいは国防婦人会みたいのが出てきて、自発的に国家の末端の機能を担ってくれるわけだから、それで目的を達成できちゃうんです。

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