「晋太郎はきつい日々を過ごしている。大袈裟ではなく人生を左右する大事な時期。いろいろなことがあって本人が落ち込んでいるのは、周囲にも伝わっている。でもすべては本人が招いたこと。この1試合で野球人生が終わりではない。この先にどうつなげていくかに注目している」

 周囲が気にする以上に、藤浪は一連の出来事で憔悴していたという。しかし自分自身の責任でもある。乗り越えるには本人の意思しかない。

「彼が帰ってきたら、阪神のムードも変わりますよ。最近は調子も良いと聞いていますのでね」

 指導をおこなった山本昌も“教え子”の復活を心待ちにしていた。その今季初登板は、今の藤浪を象徴するかのような、夏のゲリラ豪雨のような投球内容だった。

 初回からボール先行の荒れる投球だったが、それが逆に広島打線を苦しめた。しかし2点リードした6回にピレラに満塁本塁打を浴びる。結果は7回途中を4安打6四球4失点。インパクトは残したが、戦力としての評価は下せないようなものだった。

「この1試合では判断できない」

 阪神OBは、過熱する報道を冷ややかに見ながら試合を振り返る。

「球威はあったが、それを制御できないから狙い球が絞りやすくなる。1発を浴びた場面は決め打ちされた。先発投手として、調子が悪くても試合を作ることが求められている。この部分に関しては合格点。しかし精神的な安定感はまだまだ。試合中の表情を見ていても、感情の起伏が出ている時があった。1番難しい部分だが、改善の余地はまだ多い」

 以前から指摘されている精神面に不安が残るという。一朝一夕の改善は難しいだろうが、高校時代のことを例に出して、温かいアドバイスも忘れない。

「簡単に言うと、謙虚な藤浪に戻って欲しい。プロとアマは違うが、過酷な1発勝負で結果を出してきた。当時は周囲のアドバイスにも耳を傾けて、参考になるものはすべて取り入れていたはず。野球で1番になりメジャーのトップを目指すぐらいの気持ちを持てれば」

 復帰登板は比較的恵まれた状況下だった。チームも調子を取り戻し、開幕当時とは別のチームのようになっていた、その中で「この1試合は藤浪に捧げる」という部分もあったはずだ。裏返せば、誰もが藤浪を必要としているということだ。

「トレードしろとかいろいろ言われている。でも阪神投手陣を盤石なものにするには藤浪は必要不可欠。今年は最後のチャンスだとも思う。これで変わらなかったら、誰も相手にしない。どこの球団にでも行けば良い。野球だけを考え投げろ、と言いたい」

 前出阪神OBは心からのエールで締めくくってくれた。ここからが勝負、真の復活、さらなる飛躍を望みたい。