早期発見がむずかしいとされる膵がん。2019年に診療ガイドラインが改訂され、主に手術前後の治療方針が大きく変わったという。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、最新の膵がん治療について専門医に取材した。
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膵がんの早期発見がむずかしいのは、進行しないと症状が表れず、すぐにリンパ管や周囲の臓器に広がってしまうためだ。超音波内視鏡(EUS)を用いれば早期がんを見つけることも可能だが、からだへの負担が大きく、まだ一般的ではない。
一方で、新しい抗がん剤や治療法の有効性が臨床試験で示されるようになり、長期的生存も増えている。こうした状況を反映してか、2019年7月にガイドラインが3年ぶりに改訂された。
「大きく変わったのは手術前後の治療方針です」
と言うのは、全国で最も多く膵がん治療を実施しているがん研有明病院肝・胆・膵内科の尾阪将人医師。“切除可能境界(ボーダーライン・リゼクタブル)”に対する治療項目が新たに作られ、抗がん剤や放射線を手術前後に用いる補助療法をより積極的におこなうことが盛り込まれた。
切除可能境界とは、「手術で肉眼的にがんが切除できても、高い割合でがん細胞が残る可能性が高いもの」。尾阪医師はこう補足する。
「膵臓にある主要な動脈(総肝動脈や上腸間膜動脈、腹腔動脈など)などにがんが触れていたり、食い込んでいたりすると、がんがどんなに小さくても、再発率が高くなる。そうしたタイプを切除可能境界として切除可能ながんとは別に扱うことになったのです」
新しいガイドラインが示した治療方針は左上の図「膵がん治療の流れ」のとおりだ。
■早期でも術前治療 生存率上昇が確認
まず、膵がんと診断されたら、造影CTなどで切除可能かどうかを検討する。
切除可能なら多くの場合、「術前化学療法→手術→術後化学療法」という手順で治療が進む。
「今までは基本的に術前に補助療法をすることはありませんでしたが、昨年のアメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)で発表されたわが国の比較試験で、切除可能ながんでも、ゲムシタビンとS-1を併用した術前化学療法を加えたほうが、生存率が高いという結果が出た。そこで切除可能ながんでも補助療法をすることが明記されたのです」(尾阪医師)