作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、緊急避妊薬をめぐる男性医師の発言に対する世間の反応について。「おかしい」と声を上げていることに希望を感じたという。
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日本産婦人科医会の副会長・前田津紀夫氏の発言に批判が集まっている。緊急避妊薬を薬局で購入できるように求める声が女性たちから高まっているなか(現在は医師の処方がなければ購入できず、保険適用されない高額な薬。一方、医師の処方なしに数百円から高くても5000円程度で薬局で購入できる国は世界約90カ国)、導入慎重派の代表として、なかなかの男権をふりかざす発言をしてしまったのだ。
前田氏いわく、「(これで避妊できるなら)“じゃあ次も使えばいいや”という安易な考えに流れてしまう」(7月29日「NHKおはよう日本」)、「(緊急避妊ピルを内服した翌日に性交し)“もう妊娠しないから大丈夫!”と避妊しなかった場合、妊娠の確率が高くなる」(8月3日TBS系「グッとラック!」)などと言い、とにかくコンドームを使えばいい、というお立場なのだった。
前田氏は優しい雰囲気で、威圧的な人ではない。児童虐待防止の女性支援に関わった経歴もお持ちだ。ただ、ご発言からは、ナチュラルに女の人は信用できない、だから僕が指導しなければ、と考えていらっしゃるのが伝わる。そういう思考をパターナリズムという。
とはいえ、こういう前田氏の発言こそが、女性の身体をめぐる日本社会の主流だった。例えば避妊用の低用量ピルが良い例だ。1960年代からずっと認可の必要性が言われながらも、ピルを飲んだ女性たちが「これで自由にセックスできる!」と考えてHIVや性感染症が蔓延すると懸念され続けた。結局、低用量ピルが避妊用として認可されたのは1999年のことだ。その後、厚生労働省所管の財団法人が作成した中学生向けの性教育冊子「思春期のためのラブ&ボディBOOK」(2002)で低用量ピルや避妊の知識を記したところ、「寝た子を起こすな!」と自民党の保守系議員が大騒ぎし回収される事件が起きた。2005年には安倍晋三氏が音頭を取って「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」がつくられ、女性のセクシュアルヘルスや権利に関わる教育は徹底的につぶされた。