■症状がなければ経過観察の場合も
髄膜腫は進行が遅く、年単位でゆっくりと大きくなるものが多い。そのため、脳ドックなどで発見されても、すぐに手術が必要とは限らない。
「小さくて症状や浮腫がないものなら、多くはそのまま定期的な検査で経過観察をしていきます。大きさやできた場所、症状や浮腫の強さなどさまざまな状況を考慮し、患者さんの年齢や仕事、生活、希望なども聞き、必要だと思えばタイミングを見て手術をします」
そう話すのは、東京女子医科大学病院脳神経外科の川俣貴一医師だ。経過観察の間に、症状が出たり腫瘍が大きくなって手術をする人もいれば、長年変わらず、そのまま過ごしている人もいる。
発見されたとき、すでに症状や浮腫が強かったり、腫瘍が3センチ以上ある場合などには、基本的に手術をする。ただし高齢者の場合には全身状態なども考慮しながら、本人や家族の希望も聞いて慎重に判断する。高齢者にとって、開頭手術のリスクは小さくないからだ。
検査で脳に腫瘍があると言われれば、誰でも大きなショックを受ける。しかし、髄膜腫であろうという診断であれば急に進行することはないので、慌てずに現状や今後の治療について、主治医とじっくり話をすることが大切だ。もし、腫瘍が急に大きくなるような場合には、悪性脳腫瘍の可能性もあるため早期の治療が必要となる。
脳腫瘍の手術で最も重要なのが、脳や神経などの機能をできるだけ温存しつつ、腫瘍を最大限切除することである。特に髄膜腫の場合には再発もなく治癒することが多いので、手術後の生活やQOL(生活の質)を十分に考えて手術をおこなうことが不可欠だ。
■機能温存が第一 悪性度で放射線も
実際の手術は、できるだけ脳への負担が少ない方法を選択する。ケース・バイ・ケースだが一例を挙げれば、円蓋部髄膜腫の手術は次のような手順で進められる。
開頭後、腫瘍のみに分布する血管を焼灼して血流を止め、腫瘍の中身を慎重に、できるだけ多くくりぬく。これで圧迫されていた脳が減圧される。その後、腫瘍と脳が接している部分を慎重に剥離していく。くも膜や周囲の血管などはできる限り残し、腫瘍が発生した硬膜ごと切除して穴が開いた部分を筋膜などで硬膜形成する。ここまで無事にできて全摘出となる。