「東京オートサロン」の会場。新社長に就任する佐藤恒治氏(左)と豊田章男氏=1月13日、千葉市(photo アフロ)
「東京オートサロン」の会場。新社長に就任する佐藤恒治氏(左)と豊田章男氏=1月13日、千葉市(photo アフロ)
この記事の写真をすべて見る

 トヨタ自動車の豊田章男社長が、トップ交代を決断した。後任はエンジニアで執行役員の佐藤恒治氏。大抜擢の背景とは。AERA 2023年2月13日号の記事を紹介する。

【図表】豊田章男社長のあゆみ

*  *  *

 ついに動いた。なぜ、いまだったのか──。

 トヨタ自動車社長の豊田章男氏は、執行役員でエンジニアの佐藤恒治氏にトップの座を譲り、自らは会長に就く発表をした。

 章男氏は、強烈な危機感を持っていた。コロナ禍、ウクライナ問題、米中対立など、深刻な危機の中、トヨタひいては日本の産業界は、停滞感、閉塞感に見舞われている。このままいけば、日本は世界の成長から取り残される。世界最大級の自動車メーカーのトヨタとて安泰ではない。

 わが国の自動車産業は、関連産業を含めて550万人の雇用を支える基幹産業だ。トヨタがこければ、日本の雇用も危うくなる。

 章男氏は、感性が鋭い。当然、ネガティブな空気を感じていたはずだ。このままで大丈夫かと考えたに違いない。一点突破策として、社長交代が浮かんだのではないか。自分が退き、若い社長を抜擢することで、トヨタが変わろうとする姿を世の中に示そうとしたのではないか。

 トヨタの社長交代の動きは、インパクトをもって迎えられた。トヨタ社内の空気だけでなく、日本を取り巻く空気をも変えたのは間違いない。

 章男氏が次期社長に選んだのは、53歳の佐藤氏である。なるほど、彼が選ばれたのかと納得した。

 20年前のインタビュー後、彼の案内で社内の見学に誘われた。御曹司、お坊ちゃまと色眼鏡で見られていたが、章男氏は、こんなにも明るく、育ちのよさが感じられるナイスガイかと思った記憶がある。偉ぶったところは、微塵も感じられなかった。普通のサラリーマンの印象だった。

豊田章男社長のあゆみ(AERA2023年2月13日号より)
豊田章男社長のあゆみ(AERA2023年2月13日号より)

■秘蔵っ子を鍛える

 新社長に就く佐藤氏の明るさ、エネルギー溢れる姿は、あのときの章男氏を思い起こさせた。まるで若き日の章男氏にそっくりではないか。

 だから、息が合う。章男氏が彼を“秘蔵っ子”として育てたのも、自らの姿を重ね合わせたからだろう。章男氏は、つねに佐藤氏をそばに置き、大いに鍛えた。

「章男社長からは、千本ノックを受けています」

 と、佐藤氏は語っている。

次のページ