書かれるネタはすべて、ホントのことばかり。友人知人に親きょうだい、売れるとあらば恩や友情も忘れて捨ててすべてネタとして“売り飛ばし”て書き飛ばした面々は「デキゴトロジスト」と呼ばれ、おそれおののかれました。

 そんな書き手の奮戦のおかげで「デキゴトロジー」は本誌の看板連載に。樹木希林さん出演の映画「日日是好日」の原作者で、当時、デキゴトの京都・祇園での舞妓体験取材記がドラマ化されたほどの話題を集め“典奴”の愛称で親しまれた森下典子さん。初期の連載カットを担当し、のちにスピンオフ的漫画コラムに発展した「學問」を記した夏目漱石の孫・夏目房之介さんはじめ、ブレークした書き手が多く輩出した連載でもありました。

 かく言う筆者も学生時代にひょんなことから本誌元編集長に連れられて、右も左もわからぬままデキゴト担当に引き合わされ、週の何日も、デキゴトロジストとあんな驚いたことがあった、こんなおもしろいことがあったと、時にはお酒、時には朝まで、時にはカラオケ……気づけばドップリ足を踏み入れて染められていた「デキゴト」沼。諸先輩方にならい、ネタになるものは骨までしゃぶりつくす立派なデキゴトロジスト。怒られたり嫌われたり大事なものをなくしたこともありました。2020年ふうに言うなら、「ぴえん超えてぱおん」でしょうか。伝わりにくいですか。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって到来した「新しい生活」の中、懐かしく感じる方にも、初めてデキゴトに触れる方にも、ちょっとホッとするような笑いのひとときをお届けできたらと、新作を1本追加してのデキゴトロジーをお届けすることになりました。
 時代が移り変わっても、当初の宣言どおり、人間の本質は変わらず笑える話はやっぱり今も笑えます。千年後の読者も、きっと笑ってくれるでしょう。
(本誌・太田サトル)

※再録作品に関しては、朝日文庫『デキゴトロジー RETURNS』『デキゴトロジー 愛のRED CARD』『デキゴトロジー 恋の禁煙室』の3冊(1995~98年刊)から抜粋し、内容や表記を一部再構成して掲載しております(年齢は当時)

週刊朝日  2020年8月7日号より抜粋