小さい頃からいつもほったらかしだったろ! 運動会だって、一緒に弁当を食べたことなんてなかったじゃないか! 口には出しません。でも、「愛情をかけてもらえない親からは、はやく離れたい」と考えていた自分を蘇らせ、辛くあたってしまった。
そんなある日、慣れない東京暮らしで弱気になっていたところもあったのでしょう、家に帰ると、飲めない酒を飲んでぽろぽろぽろぽろ一人で泣いている母がいました。おふくろにしてみれば、日用品の卸売店に勤めながらの必死の子育てだったと頭ではわかっていたのですが、当時の僕は、見て見ぬふりをしてしまいました。「ごめん」のひと言が言えなかったのです。
1年ぐらいして、仕事が順調になりだしました。運よく、外人顔がモテはやされる時代の波に乗りました。家に帰ると、
「すごいね、すごいね、すごいね」
あんたは、すごい、あんたはすごいよ。そうしっかり褒めてくれた母。それでも僕ははぐらかしてしまった。どうしたんだよ、おふくろ。おふくろらしくないじゃないか。気を遣ってるんじゃないのか──。そのときも言えなかったのです。ありがとう、と。
思えば、チビの頃から小倉で言われていました。
「『ごめんなさい』と『ありがとう』は、素直に言えたほうがいいよ」
そんな人になりなさいな。
当時の思い出の写真があります。小学3年生のときのこと。二人で動物園に行って、おふくろが撮ってくれました。その写真を見ると、思い出す言葉がもうひとつあります。
「あんたと私は目がそっくりだよね」
ああそうか、そっくりなのか。おふくろは俺をよく見ていたんだなあ。
自分の目のなかに母を見ます。こうしていまも、守られているのです。