草刈正雄さん(撮影/篠田英美)
草刈正雄さん(撮影/篠田英美)
『人生に必要な知恵はすべてホンから学んだ』より
『人生に必要な知恵はすべてホンから学んだ』より


 草刈正雄さんが「人生第二の転機」と話す三谷幸喜さんとの出逢い。いい台本(ホン)は人生をも変えることを教えてくれたのも三谷さんだったといいます。「他の人にやらせたくないな……この役は!」と思わせた三谷作品とは? 話題の新書『人生に必要な知恵はすべてホンから学んだ』(朝日新書)より一部を抜粋・再構成してお届けします。

【少年時代の草刈正雄さんはこちら】

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「この作品は、やらなくては」

 いい台本とは、究極のレシピです。書かれているままに演じれば、いい味が出るからです。役者はホンに従えばいい。ホンの通りにすればいい。自分がなにをするべきか、ホンがすべて教えてくれるのです。

 いいホンとの出逢い。それが人生をも変えることを教えてくれたのが、三谷幸喜さんです。三谷さんの話をしようとすると、自然に笑ってしまうんですよね、とにかく面白いから。

 何がって? 創る世界そのものが、です。時代劇にしても、現代劇にしても、三谷さんの筆にかかると、誰もが身に覚えのある“人間劇”になる。言いたくても言えないことや、その反対に、言いたくないのに言ってしまうこと。人間の裏表やグレーゾーン、はたまたとことん入り乱れるウソとマコトと勘違い。

「ああ、そうだよなあ、人間って……」

 愛すべき人間の魅力というものが、台本のなかに流れ続けているのです。

 三谷さんとの出逢いは、2014年です。それ以前にも、刑事ドラマ『古畑任三郎』第2シーズンの「ゲームの達人」(1996年)でゲスト主演をさせていただいたんですが、しっかりと演出を受けたのはこの年が最初になりました。

 三谷幸喜脚本・演出『君となら~ Nobody Else But You』、再々演版のひと月以上にわたる舞台です。初演と再演では、角野卓造さんと斉藤由貴さんが演じた父娘役を、竹内結子さんと僕という配役でした。

 それは不思議な年でした。不器用なので、仕事を複数重ねないようにしながら生きているのですが、2014年は舞台の仕事を3本受けていたのです。僕にしては、かなりめずらしいことでした。

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三谷さんの舞台を引き受けた理由とは?