結局、安倍首相は約7時間滞在したが入院はせず、自宅へ戻った。その際、集まったマスコミに「お疲れ様」と一言だけ口を開いた。自らの健康については何一つ語らなかったが、その後、病院側が「6月13日に受けた人間ドックの追加の検査」と検診理由を発表。あくまで検査に過ぎないことを強調したが、首相の「健康不安説」はむしろ強まる結果となった。
マスコミに情報を流し、病院に出入りする姿を「撮らせて」まで演出された、この騒動の政治的な目的は何だったのか。永田町を取材すると聞こえてくるのは、コロナ終息に向けて全く道筋が立たない安倍政権の相当ないらだちだ。
決定打は景気の指標となる4~6月期のGDPが戦後最大の落ち込みを見せ、各社の内閣支持率がNHKの34%など、相次いで過去最低になったことだった。ある自民党幹部はこう分析する。
「感染対策と経済の両立を全く舵取りできない責任は、間違いなく安倍首相にある。野党は国会を開けと息巻いているが、国民感情としても、なぜ責任者が何の説明もしないのか、という声は多い。しかし、当の本人は体調面でも、精神面でもそれに応える余裕はなく、そのことを正当化するには首相はがんばっている、という世論の形成しかない。そうすることで感染終息までの時間稼ぎをしようという、安倍首相をおもんばかる周囲の作戦でしょう」
実はこのシナリオは、安倍首相の最側近3人で演出された。今井尚哉総理補佐官と前出の甘利氏。そして、安倍首相に万が一のことがあれば代行として采配をふるう立場の麻生太郎副総理だ。安倍首相は12日に甘利氏、15日に麻生氏と相次いで二人きりで会談している。
安倍首相は17日に病院を経て自宅に帰り、19日午後、再び官邸に姿を見せた。安倍首相が病院に入った日、その健康状態について記者からコメントを求められた麻生氏は、首相をかばうようにこうぶちまけた。
「あなたも147日間休まず働いてみたことありますか? ないだろうね、だったら意味分かるじゃない。140日休まないで働いたことないだろう。140日働いたこともない人が、働いた人のこと言ったって分かんないわけですよ」