不審を募らせた複数の職員は何が起きているのか調べるため、施設内の音声を録音した。冒頭のAさんへの暴言は、こうして録音された記録から当日の様子を再現したものだ。この翌日、Aさんの手の甲や腕、足に大きなあざが確認されている。
Xが夜勤に入った7月の別の日には、Aさんの腕の皮膚が数センチにわたってペロリとはがれていた。鋭利なものを押し付けられたかのようだった。後日、Aさんはもう一人の内部告発者である職員の木村俊子さん(仮名)にこう証言している。
「男。バーンてやるの。たたかれたの」
Aさんはたたくような身ぶりをして、つぶやいた。
「痛かったよ」
木村さんが「ご家族に言おう」と語りかけると、「そんなこと言うと、ここ来ないでいいと言うから」。施設を追われる恐怖から、家族にも被害を明かせないでいたようだ。
7月は毎週のように誰かがけがをした。木村さんは胸の内を話す。
「高齢者は体をぶつけることも多く、確かにあざを作りやすい。でも、あんなに大きなあざは普通できません。柵を取り付けたベッドで寝ている利用者もけがをしていましたが、ありえない。施設ではこれまで、大きなけがが月に何度も起こるなんてことはなかった」
6月のある朝には、こんな音声が残されていた。
「ぶん殴るよ。うるさいんだから」
声を荒らげたのは女性職員Y。Aさんへの、トイレ介助での一幕とみられる。Yは厳しく叱りつけた。
「早くやりなよ自分で。足! 足やらないとできないでしょう」
Aさんは黙って耐えていた。6月の別の夜、前述の骨折による入院から戻ったばかりのBさんは、オムツをはかせようとするYを頑なに拒否していた。何度かやりとりをするが、Bさんの気持ちは変わらない。
「着替えないとだめだよ」と促していたYの声色が突如鋭くなった。
「やめないよ。痛くてもやめない! やめないって言ってるだろ」
Bさんの絶叫が施設に響き渡る。
「いたあい、痛いよお。やめてー」