キャンプ育ちのパレスチナゲリラの子供たちは五歳頃から銃を持ち、訓練にはげむ。キャンプの取材に加えて、当時アラファトが率いていたアル・ファタハ(パレスチナ解放機構=PLOの主流穏健派)の広報ゲリラの案内で、目隠しをされてシリア国境に近い灌木地帯に導かれ、軍事訓練をするゲリラ「黒い九月」(ミュンヘンオリンピックでテロを起こした)を取材させてもらったこともある。
帰り道、ローマ時代の遺跡バールベック近くで、南を指しながら「向こうがパレスチナ、私の故郷だ!」と言った案内役のゲリラ、リアドの眼を忘れない。
再び戦が起こり、つれあいも命からがらキプロスに逃げ、古き良き時代のベイルートは崩壊した。
そして今度の大爆発。赤黒い煙、白い雲の渦巻くさまは原爆にも似ていた。つれあいの住んだアパートメントも爆風でどうなったか。混乱と内戦の国レバノンの行く末は? かつて委任統治領として支配したフランスをはじめ、イスラエルまで復興を助けるというが……。
イギリスに移住した日本レストランのヴァンさんはこの春、爆発を知らずに亡くなった。
※週刊朝日 2020年9月4日号
■下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数