西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「自然治癒力」。
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【西洋医学】ポイント
(1)自然治癒力は免疫力と大きく違っている
(2)自然治癒力は西洋医学の表舞台から消えた
(3)自然治癒力の正体は、いずれ解明されるべき
最近、免疫力が注目されています。免疫力を高めて、コロナに負けないようにしようという人が多いからでしょう。
自然治癒力という言葉もあります。この自然治癒力と免疫力は混同されやすいのですが、実は大きく違っているのです。
風邪をひいたときに体を回復させるのは免疫力です。一方で、怪我(けが)をして傷ができたときに、元通りに回復させるのは自然治癒力です。
免疫力は外部から入ってきた病原体など異物(非自己)に対して働く力なのに対して、自然治癒力は体の中で起きた不具合(例えば、傷ができるなど)を回復させる力なのです。人間の体は病原体だけでなく、様々なストレスでも不調になります。体の秩序に歪(ゆが)みが生まれるのです。それを回復させるのは自然治癒力です。
免疫の正体については、近年、研究が進んで多くのことが明らかになってきました。本誌6月5日号で書きましたが、抗体を作る獲得免疫より、それ以前の自然免疫の方に重要な役割があることなどがわかってきています。免疫チェックポイント阻害剤、オプジーボの発見とがん治療への応用で本庶佑氏がノーベル生理学・医学賞を受賞しましたが、これも免疫学の進展による成果です。
ところが、自然治癒力については、まったく解明が進んでいません。むしろ、西洋医学では自然治癒力の領域に踏み込もうとしていないかのようです。
『医学大辞典』(第20版、南山堂)で「自然治癒力」をひいてみましたが、そういう項目は見つかりません。あるのは「自然治癒性扁平上皮癌」という疾患名だけでした。