

連続在任期間を更新したばかりの安倍首相が8月28日、突然辞任を表明した。安倍政権が私たちに遺したものとは。AERA 2020年9月7日号は、巻頭エッセイ「eyes」で連載中の政治学者の姜尚中さんに聞いた。
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安倍晋三首相は連続在任日数で佐藤栄作元首相を抜き歴代1位となり退陣します。改めてその長期政権を振り返り、特徴は何かと考えると、「選挙」と「外遊」に集約されると思います。
長期政権だったことを鑑みても、総選挙をこれほど実施した政権はこれまでどこにも存在していません。憲法上は疑義があるにもかかわらず、内閣総理大臣の専権事項として何度も選挙を繰り返し、有権者から判断を仰げば全権委任という解釈で来たわけですから、「選挙独裁」といっても過言ではないでしょう。
また、国内政治で何らかの障害に当たるたびに外遊を繰り返した政権も珍しいと思います。安倍首相は外交が得意技であると言われており、「アベノミクス」と「外交」が政権の二枚看板だったわけです。経済についてはご専門の浜矩子さんにお願いするとして、ここでは外交を中心に見ていきたいと思います。
8年近くの歳月があったにもかかわらず、まったく進展のない拉致問題。膨大な武器の購入。イージス・アショアの破綻。自由貿易に相反するような要求をのんでしまった日米関係。日ロ首脳会談を27回も行ったのに、北方領土問題は鳩山由紀夫内閣のやった日ロ交渉以前の状況に戻ってしまい、そればかりか、EU諸国との関係を鑑みれば日ロの「蜜月」はマイナスでしかありませんでした。
習近平氏の来日キャンセルによる誤算も大きく、インドなどを中国包囲網に抱き込もうとした鳴り物入りの「地球儀俯瞰外交」も結果を残せないままフェードアウトしています。
こうして安倍外交を振り返ると、問題をランダムに取り上げて、あるところがダメだと違うオルタナティブにスイッチして、それがダメだともう一つのところに飛びつく。深掘りをするわけでもなく、どうやって「見せる化」していくか。これが外交ショーとして繰り返されました。安倍政権にとって、外交というのは支持基盤を高めるための大きなテコだったのです。