とにかく円丈師匠は腹を括ってこの一冊に命をかけてたのだというのが、ビンビン伝わってくるのだ。これからも同じ世界で生きていくはずの兄弟子への批判や、なによりも騒動の後に亡くなった師匠・圓生への包み隠さない怒りと愛情。学生の時に読んで、ちょっと泣いた。
私が噺家になり楽屋で、『御乱心』に登場した師匠方をドキドキしながら見ていても、別にふつーに会話してるのが不思議だった。すでに雪解けしたのか。それとも腹の中にはいろいろあるが平静を装っているのか……。
『御乱心』で批判された○○師匠の御子息△△兄さんが前座になったとき。ある先輩が「これ読んでみな」と『御乱心』を渡したそうだ。中には○○師匠への厳しい言葉が書いてあるのに。先輩からのキツい洒落。数日後、「どうだった?」と聞かれ△△兄さんは「いやー、○○って奴はほんと悪い野郎ですねぇ!!」と、笑いながら本を返したらしい。いい話。
後述の2冊は夏の終わりに是非読んでみてください。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。YouTube 「春風亭一之輔チャンネル」ぜひご覧ください! アーカイブもいろいろあります
※週刊朝日 2020年9月11日号